雑食

□私の殺意は美しく恐ろしい
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目が覚めると血の海に横たわっていた。
混乱と血生臭さ、震えながら体を起こせば私を見下ろす鋭い目の男。

「あれ、生き残りがいたなんて気付かなかったなぁ◇」

首を傾げながら一歩、二歩、と私へと近づいて来る。
私は知っていた。
あれが誰なのか。どうしてここに居るのかは分からない。でも、あの異常者が誰なのかは知っていた。

「殺さないで……」

「……」

思わず出た言葉。
この男は好きじゃないだろう。弱者の命乞いなんて虫唾が走ることだろう。
なんで、どうして、なんでなんでなんで!!
ピッとトランプを一枚出した男を見て、ヒュッと喉が鳴った。
何か、言わなければ、この男に生かしておこうと思わせる言葉を言わなければ。
動揺していたわりに頭は冷静だったのか。
次の私の言葉で男はニコリと笑うのだ。

「…強く、なりますから…。貴方を、殺せるくらい、強くなりますから……」

今は殺さないで、と涙ながらに言った私を見てどう思ったのか男は……、"ヒソカ"はニコリと笑った。

+

念を使えるようになるのは命懸けだった。
一般人の私は毎日毎日、尋常じゃない程の筋トレも欠かさず行わなければいけなかった。
正直、死ぬより辛い選択だったんじゃと思った日もある。
でも、私は生きた。生き抜いた。
私の系統は特質系だった。最初はそれだけでヒソカが私を生かすには十分な理由だった。面白く成長するかもしれない、と。
しかし、日が経つにつれて、ヒソカの関心も薄まりつつあった。それは私にとっては死を意味している。
努力した。努力して、努力して、努力して。
努力し続けても私の力は完全に開花されなかった。
特質系の、自分の能力が理解出来なかった。念を使うと私の手の平に大きな花のツボミが出来るのだ。
両手に収まりきらない花のツボミ。ただそれだけ。
これが咲けば何かしら能力が得られるのではと修行を重ねるもツボミは開こうとはしなかった。

つまらなさそうに私を見ていたヒソカ。
まだツボミが開く余地がある内は生かしておこうと思っているのだろうか。
ヒソカ経由で知り合った幻影旅団団長のクロロが私の花のツボミに興味を持っていたからまだ生かしておこうと思っているのだろうか。
まだ、殺さないでいてくれるのだろうか……。

ツボミが開かぬまま、時間は無情に過ぎる。
ある日、幻影旅団の前に少女が一人現れたらしい。突然、気付かぬうちにそこに居たのだと言う。
きっと私と同じ境遇の子だと、その時は喜んだ。同じ苦しみを分かちえる存在が現れたのだと。
でも違った。
彼女は才能に満ち溢れていた。彼女はみるみる強くなった。
ただ、手の平にツボミを持っているだけの私とは違った。

私の前にヒソカが現れなくなって半年。
月に一度か二度は様子を見に来てくれていた彼はとうとう私を見限ったらしい。咲かないツボミになど用は無いと言う事だろう。
幻影旅団の皆に蝶よ花よと愛されている彼女の傍に彼が居た。

このまま忘れられれば、私は普通に生きられるのではないか。と思った。
でも、私はどれだけ努力したというのか。たった一人の男の為に。
最初は死にたくないが努力する理由だった。いつしか、ヒソカに実力を認めてもらいたいが努力する理由になっていた。
認めてもらいたい、興味を持ってもらいたい、貴方の特別でありたいと、思っていた。

もう、殺しにも来てくれないのでしょう?

悔しさと悲しさと愛しさと、才能ある彼女へと嫉妬心で心が埋め尽くされる。
私に実力があれば、ヒソカは私を見てくれたのに。
私に実力があれば、彼女を殺してやったのに!

私の中に芽生えた本気の殺意。
沸々と血管が煮え滾る感覚。感じた事のないくらいの高揚感。
殺せ!殺せ!と私の中で自分自身が叫んでいた。

彼女が羨ましいなら、彼女の全てが疎ましいなら。
あの女を殺して全てを奪い取れば良い、と。

私の手の平の中で大きなツボミは開花した。
私の殺意と共に。

+

クロロは視界に映る光景が一つの絵画のように思えた。
美しい大輪の花を咲かせた女が自分の目の前に現れ、先程まで笑っていた少女を惨殺する様は芸術だった。

真っ白な大輪の花。

真っ赤な鮮血を浴びても尚、白く輝く花。
元が人間だったなんて想像も出来ない程にぐちゃぐちゃに少女を踏み潰した女は満足気に笑ってみせた。

「ヒソカ、私、約束が守れそうよ」

素晴らしいね、と笑うヒソカに女は微笑み返す。
その光景をクロロは羨ましく感じた。
欲しい、あの女が欲しい、あの花を咲かせる女が欲しい。



【 私の殺意は美しく恐ろしい 】



貴方を殺すのは私。



END

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