雑食

□愛しい可愛いセニョリータ
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煌びやかなパーティ会場
不機嫌を隠さない我らがボスに小さく溜息を吐いて、スクアーロは手元のシャンパンを傾けた。
名のあるマフィア達の親交パーティ、と言えば聞こえは良いがこれは腹の探りあいであり、情報収集の場だ。
ヴァリアーもまた次なる標的の情報を掴む為に参加したにすぎなかった。
あと、年中人手不足のヴァリアー隊員の補充も目的である。ヘッドハンティング目的でめぼしい人材を探しつつスクアーロは手元のシャンパンを飲み干した。

「好みの子が居ないわぁ〜」

横で深く溜息を吐いたルッスーリアをスクアーロは睨み付ける。

「ゔぉい!真面目にしろ!」

「分かってるわよ。冗談通じないんだから、もうっ」

ルッスーリアの顔には退屈と書かれているかのように明らかだった。
しかし、それはスクアーロも同じだった。情報収集に媚びへつらい会話をするのも疲れるし、人員補充の為とはいえ、見渡せど雑魚ばかり。
ザンザスは他のマフィアのボス共に囲まれ、適当に相槌を打ち仕事をこなしているが、いい加減ブチ切れそうだ。

真面目に情報集に務めるレヴィ、食事を頬張るベル、何処かへ消えたマーモン…。

「いい加減、情報収集担当のやつが欲しいところだなぁ…」

「そうねぇ…」

幹部クラスの実力があって、一人でサクサク情報を集めて来れるような奴がいれば良いのに。とスクアーロは小さく溜息を吐いた。
スクアーロが溜息を吐いた横でパーティーのスタッフ達が慌ただしく動き始めた。

「どうしたのかしら」

聞き耳を立てれば、顧客リストのデータが盗まれた。とヒソヒソと会話をしている。
おいおい、マフィア連中の個人情報全流出かよ。とスクアーロは眉を顰めた。勿論、自分達ヴァリアーのある程度の情報も含まれているので多少は問題である。

「困るわぁ、そういうザル警備されると…」

「全くだぁ」

何処の国の諜報機関か知らないが面倒な事をしてくれるものだと、スクアーロはまた小さく溜息を吐いた。
そういう鼠はさっさと捕まえてしまうのが早い。離れた場所に居たレヴィが小さく頷いたのを確認してからスクアーロは食事を楽しむベルの首根っこを掴んだ。

「仕事するぞぉ」

「まだ食ってんのにー…」

スタッフの一人を捕まえて状況を説明させる。

「データが盗まれたのは3分前です。出入り口はすぐさま封鎖し、警備は厳重にしております。まだデータを盗んだ人物はこの会場内に潜伏していると思われます」

「外にはうちの隊員も居るから、そう簡単には逃げられねぇだろうなぁ」

「どっかのマフィアの奴なんじゃねーの?」

「まあ、その可能性もあるが…」

「では、スタッフの方で皆様に所持品検査をお願いし、データの入ったUSBなどの所持を確認致します」

「しといた方が無難だなぁ」

承知しました。とスタッフが頭を下げて小走りで他のスタッフのもとへ向かった。
すぐに館内アナウンスが流れ、一人ずつの所持品検査が行われる事になった。不満や怒声が飛ぶ中、スタッフ達がペコペコと頭を下げて案内をしている。
騒がしくなっても変わらず酒を飲み続けているザンザス。いちいち口を出すとまた酒瓶を投付けられそうだと思ったスクアーロはザンザスを放って置くことにした。

「おい、外の隊員達に確認したが誰一人、外に出た者は居ないそうだ」

「なら、やっぱりまだ中に潜んでやがるか…」

「管理室チェックして来たわよ〜。調べさせたけどめぼしい指紋も痕跡も当然ながら残ってなかったわ」

「もうほっとこうぜ、所持品検査で引っ掛かるって」

とりあえず、様子を見るか…。とスクアーロは眉を顰めた。
自分達もまた所持品検査を受けて身の潔白を証明し、暫く経った後、スタッフの一人が困り顔で言った。

「データを所持している者は居ませんでした」

なら、マフィア関係者では無く、何処かに隠れ潜んでいる可能性が出てきた。

「ゔおぉい!ヴァリアー隊員総出で館内を捜索させてもらうぞぉ!」

「ええ、勿論、大丈夫でございます!よろしくお願い致します!」

他のマフィア連中も自分達の情報流出は避けたいのか各々で動き始めた。
各部屋、天井裏、床下まですみずみと捜索したが怪しい人物は一人として出て来なかった。

「もう出て行ったんじゃねーのこれ!?絶対おかしいって!!こんなに探して居ねぇなんて!」

「もしかして、スタッフの中に紛れ込んでるんじゃないの?」

ルッスーリアの言葉にスタッフが「え?」と首を傾げた。

「スタッフの確認はしたのかぁ?」

「勿論でございます!皆様の所持品検査後、スタッフ一同も身元確認と所持品検査を行いました」

「そうかぁ…、もうデータが盗まれてどれくらい経った?」

「えっと…盗まれてからですか…?盗まれた時間がハッキリしておりませんので何とも言えませんが、盗まれたのを我々が確認してから…」

「はあ?盗まれたのは3分前とか言ってたじゃん」

「3分前ですか?…盗まれた時間としては正確には把握しておりません。確認する1時間前からすでに盗まれていた、という可能性もありますので、答えたスタッフの伝え方のミスではないでしょうか」

「なんだと!?1時間も前に盗まれていた可能性があるならもう逃げられている可能性もあるではないか!」

「申し訳ございません!申し伝えたスタッフにすぐ確認致します!……ちなみに、どのスタッフでしょうか…?」

スタッフが片手を後方へと向ける、後ろに並んで立っていたスタッフ達が困惑した様子で顔を見合わせていた。
誰がそんな事を言ったの?と言いたげな表情をスクアーロは一人ずつ確認するが、最初に捕まえて状況を説明させたスタッフが…居ない。

「ゔおぉい…、居ねぇぞぉ…」

「…スタッフはここに居る子達で全員なの?」

「ええ。スタッフ全員です」

「最初にお前達に所持品検査をするように指示したスタッフの男だぞぉ!?」

誰だった?お前じゃなかったか?とザワザワしだすスタッフ。
やられた。とスクアーロはぐしゃぐしゃと髪の毛を掻き乱した。データを盗んだ奴は堂々と3分前に盗んできましたよ、と自分達に伝えてきていたわけだ…。

「これはもう逃げられてんなー」

ベルが大きく溜息を吐いた。
会場内ではもう帰らせろ!と怒声が飛んでいる。そろそろ限界だろう。

「完全に負けちゃったわね…」

「くそっ…」

完全敗北、パーティーはそこでお開きとなった。
ゾロゾロと帰って行く招待客達。
最後のあがきと言わんばかりにスタッフが帰る招待客一人一人をチェックして出口に通していた。
スクアーロは大きく溜息を吐いて、ザンザスのもとへ戻る。

「情報流出しちまったぜぇ…」

「問題ねぇ」

グラスをテーブルに置いたザンザスはポケットからUSBメモリを出した。

「は?」

「面白そうな奴が居たからソイツの仕事っぷりを試した。顧客リストをパクってきたうえでお前達を欺けと命令したのは俺だ」

「な、なにぃ!?」

採用するか、とザンザスが不敵に笑った。
スクアーロはザンザスからUSBを掴みとり、踵を返して出口へと向かう。
スタッフの横で立っていたベルは肩を竦めて首を横に振る。

「スタッフに化けてた奴、通んねぇけど」

「パソコン貸せぇ!」

「は、はい…!」

ノートパソコンにUSBを差せば、顧客のリストが並ぶ。横で驚くスタッフを無視して今日の招待客の顔と名前のリストを順に開いていくが…、
最初に見たスタッフの顔が無い。
変装してやがったのか、とスクアーロはギリリと奥歯を噛み締めた。

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