雑食

□重大な心の病です
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街の飲み屋でたまたま居合わせた奴と飲んだ。
酒の力もあってか、内容は覚えていないが凄く盛り上がって。
なんかよく分からねぇ海賊船に乗ることになってた。
まあ、乗るって言っちまったんならしょうがない。暴れるのは好きだし、好きにぶっ殺せるなら海賊も良いんじゃねぇの?と思ってそのまま船に乗ったんだが。
なんかこの船の船長が医者で。小難しいことばっかり言ってくる。
薬の名前やら、応急処置の方法やら、この本を読むように、とか…。めんどくさい。

薬とかそもそも使わねぇし!人生で一度も使ったことねぇよ!
応急処置もめんどくせぇ!死ぬときゃそのまま死なせとけ!?
あと、オレ、字、読めねぇから!!

「シャチ〜」

「ん?」

「キャプテンに文字の読み書き出来ねぇなら誰かに教われ、って言われた」

「おー、教えてやるよ」

「まじかよ、お前良い奴だな」

「大袈裟だな」

よいしょ、とおっさん染みた声を出してシャチの向かいに座った。
向かいに座ったオレを見てシャチが首を傾げる。

「なんかノートとペンとか持って来てねぇの?」

「そんなもの持ってねぇ。ちなみに人生で一度たりとも持った事ねぇわ」

「お前っ…」

「あー、そもそも文字の読み書き出来なくても言葉が通じてるんだからそれで良いじゃんかよー、めんどくせー!」

「読み書き出来て損もしねぇんだから、良いだろ」

「はぁ〜…この船、何かと覚えろって言われるからしんどい」

「まあ、キャプテンがわりと几帳面の真面目人間だからな」

「オレ、船降りようかな」

「早っ!?一週間経ってないのに!?」

「なんか合ってない気がする。もっと馬鹿の集まりみたいな所に混ざりたい。オレも馬鹿だし」

「えぇー…」

まあ、降りるって言っても次の島に着くまで降りられないんだけど。
大丈夫だって、すぐ慣れるって!とオレを引き留めようとしてくれるシャチ。優しい奴だなぁ。オレの気持ちは揺るがないけど。

「酔った勢いで船になんて乗るもんじゃねぇよ。覚えてねぇけどさ」

「キャプテンはナナシの事、気に入ってるし、やりたくない事はやんなくて良いから、降りるとか言うなよ、な?」

「えー…?」

「やりたい事だけやってて良いから!」

「じゃあ、とりあえずぶっ殺したいんだけど、いつ船襲うの?」

「うーーーん……、あんまり襲わない、かも…」

「襲わない!?海賊なのに!?」

「うちはそういうヤバイタイプの海賊じゃねぇから!」

「じゃあ、ヤバイタイプの海賊船に乗るぅー」

「それは駄目だけどぉー」

なんで駄目なんだよ!と怒ればシャチは考え込んでしまった。
コイツ、サングラスしてるから無言になると表情が読めん。

「あ、でもさ!ナナシ!」

「うん?」

「キャプテンの事は好きだろ?」

「いや、別に」

「はあああああああ!?!?」

「はあ?」

「キャプテンの事が気に入って船に乗るって言ったんじゃん!お前ぇええ!!!」

「覚えてねぇって言ったじゃん」

「はああああああ!!!!」

なんだよ、うるせぇなぁ。とオレが思っていたら通り掛かったペンギンもそう思ったらしくシャチの後頭部を引っ叩いた。

「うるせぇ!」

「ペンギン…大変だ…」

「なんだよ」

「ナナシが、キャプテンの事好きじゃないって…」

「なんでだっ!!!お前!!!何とか言ってみろ!!!」

「なんで怒る?」

ペンギンに胸ぐらを引っ掴まれた。
なんかちょっと涙目なのは何故なの、ペンギン。どうした?

「まあ、離せ」

「ううう…」

「今はキャプテンが好きとか好きじゃないとかではなく。なんかこの船、めんどくせぇからもう降りたいなーって話をしてたんだよ」

「もっと最悪だ!!」

なんでそういう事言うの!おれ達の身にもなれよ!と泣きだしたペンギン。
そんなに人員不足かこの船。確かに多くはないけど、ジャンバールなんてクソデカイんだから大丈夫だろ。補えるってオレ一人分くらい。

「冷静に聞いてくれ、ナナシ」

「オレは冷静だけどな」

冷静じゃないのはお前らだぞ?

「キャプテンはナナシの事が好きなんだ」

「オレは別に好きじゃねぇって」

「真面目に聞いて!?ラブなの!マジラブなの!!」

「はぁ?ラブ?」

「そう!飲み屋でお前に惚れちまったキャプテンの気持ちを考えてあげて!」

「きもい」

「きもい、とか…っ、言わないであげて…っ!!」

「泣くなよ、男だろ、元気だせ」

「お前のせいだよぉ!」

わんわん、と泣きだしたペンギンとシャチ。
キャプテンがオレに惚れてる?
それを言われてオレの船を降りたい気持ちが変わるとでも思ってるのか?むしろ、もっと降りたくなったわ。

「オレ、男の子だから女の子が好きです」

「「……」」

「お分かり?」

「見ようによってはキャプテンは女性的だと思うなぁ!」

「そうだな!華奢だしな!ちゃんと見ると美人だぞ?ん?」

「必死かよ」

向かいに座っていたシャチがオレの隣に移動してきた。そして反対隣にペンギンが座った。やめて、挟むのやめて。

「よく、よく考えよ?な?ナナシ?」

「こわいんだけど」

「お前が万が一に船を降りた後のおれ達の方がこわいんだよぉおお!?」

「やめろ!想像させるなペンギン!涙が出ちゃう!」

「…どうしろと?」

両手を片方ずつシャチとペンギンに握られた。
やだー、男に手を握られるとかやだー。

「船を降りないで下さい」

「キャプテンのこと好きって言って下さい」

「……」

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