雑食
□好きだって気付いちゃった?
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その日、カカシは演習所に迷い込んだ少女を保護した。
小さなカゴを片手に半泣きになっている少女を見掛けては放って置くわけにはいかなかったからだ。
「名前、言える?」
「ナナシです…」
「何歳?」
「7歳です…」
7歳の少女、ナナシと出会ったのはカカシが17歳の時であった。
10歳も年下のナナシにカカシはどう接していいものかと頭を悩ませる。今もぐすぐすと鼻を啜っている少女に掛ける言葉が思い付かない。
「えーっと…、とりあえず商店街の方まで行く?」
「…はい」
見覚えのある場所まで行けば落ち着くかもしれない、先導しようと歩きだしたカカシの左手をナナシの小さな手が握った。
あー…、手を繋いでいくのね…。
こういう事は慣れてないんだけど、と思いつつもカカシはその小さな手を握り返した。
人が見つかった、商店街まで戻れる、という状況に落ち着いて来たのかナナシの涙はいつの間にか止まっていて、ニコニコとカカシを見上げて人懐っこくカカシに話し掛ける。
「森の奥の方に野イチゴがいっぱい生ってたんです!」
「へぇ」
「これはジャムにしてパンに付けて食べるんです!」
「そう」
カカシは相槌を打つだけだったがナナシはとても楽しそうに話を続けた。
野イチゴの中に蟻が居ないか調べなきゃいけなくて〜、と7歳の少女からジャムの作り方を説明されるカカシ。
「詳しいね。お母さんとよく作るの?」
「……」
「?」
「…はい、そうです!」
少しの沈黙の後にナナシは笑顔で頷いた。
質問の意味を考えてたのかな、と思ったカカシは特にその少しの沈黙を気にする事はなかった。
商店街に着くと、八百屋のおばさんが「あら」とナナシに声を掛けた。
「ナナシちゃん、今日はどうしたの?」
ちらり、とカカシを見た八百屋のおばさんの目は顔の半分以上を隠すカカシを怪しむ目だった。
「野イチゴを摘みに行ってました!」
「そっちの人は誰だい?」
「カカシお兄さんです!迷子になった私をここまで連れて来てくれました!」
「あら!そう!」
ニコニコと笑うナナシに八百屋のおばさんは安心したように笑い。カカシにも笑顔を向けた。
「親切な人だったのねぇ!不審者かと思っちゃったわよ!ごめんなさいねぇ!」
「ははは…」
不審者だと思ったって言わなくてもいいのに、と思いながらカカシは苦笑いを返した。
今日は綺麗なトマトが入ってるよ、とおばさんはナナシに真っ赤なトマトを差し出した。
「大きくて綺麗です!」
「はい!ひとつ持って帰りな!」
「ありがとうございます!」
貰った!と喜ぶナナシ。
まだ他に何か要るものあるかい?と八百屋のおばさんの言葉にナナシは首を横に振った。
「大丈夫ですー」
「惣菜屋に顔出して何か貰って帰るんだよ」
「はーい」
買うんじゃなくて、貰うんだ。とカカシは心の中で思った。
カカシを見上げたナナシはニコリと笑う。
「カカシお兄さん、送ってくれてありがとうございました!」
「どういたしまして…」
「お家、帰ります!さようなら!」
またね、カカシお兄さん!と手を振ったナナシにカカシは手を振り返した。
はぁ〜、一仕事終えた気分だ、とカカシは小さく息を吐く。そんなカカシの肩をポンと八百屋のおばさんが叩いた。
「ナナシちゃんにまた声掛けてやってね」
「え?」
「あの子、両親居なくて一人で暮らしてるのよ」
簡単なお料理とか自分でしててねぇ、本当に偉い子なの。とベラベラとしゃべるおばさん。
あの時の少しの沈黙はそういう事だったのか、とカカシは眉を寄せた。
お母さんとよく作るの?と聞いた自分に気を遣わせない為に嘘を吐いたのだろう。7歳の幼い少女が…。
「はい!これ、持って行って!不審者だと疑ったお詫びだよ!」
「ははは、どーも…」
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