雑食

□それは無理
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認めよう。
おれは酒癖が悪い、と……。


転々と島を渡り、時には町民として溶け込んでみたり、時には悪い奴ら相手に商談を持ち掛けてみたり、
情報屋としてはそこまで名がある方ではないが自由気ままに仕事をして金に困らない生活が出来ているので問題無い。
一日の終わりに酒さえ飲めれば人生幸せなのだ。

とある日も、気ままに仕事をして日銭を稼ぎ、酒屋で一杯…とは言わず、一本以上の酒を飲んだ。
途中から記憶は無い。
そこが問題だった。酒を飲んで記憶を無くしてその辺の道端で寝てるとかゴミ箱にすっぽりだとかだったら全然マシで。
おれは酔うとどうも人を口説くらしい。
記憶が無いので自分がどう口説いているのかは知らないが、ベロンベロンになった次の日の朝は知らない誰かの家でその知らない相手が横で寝息を立てているわけだ。
毎回毎回、おれはどんな口説き文句でベッドに上がりこんでいるのか自分でも疑問である。
綺麗な女からゴツイ男まで何でも食ってるおれって凄いな。と思ってしまう。記憶が無いのでどう頂いたかは知らないが……。

そういう状況にならないように酒を抑えて飲もう!と心に決めても飲み出したらもう止まらない。
禁酒も考えた事があるがやっぱりそんな事は出来なくてまた朝を迎えれば横で誰かが寝ているわけだ。
そんな誰かの一人が、めちゃくちゃ有名でヤバ過ぎる奴だったおれはその場で人生が終わった事に絶望し、頭を抱えた。

マジで、どうやって口説いた、おれ。

トレードマークと言わんばかりのピンク色のコートがベッドの脇に落ちていて、サングラスはしていなかったがどう見ても、何度見直しても、ドンキホーテ・ドフラミンゴです。はい、おれの人生終わりです。ありがとうございました。
コイツ寝てるし、そーっと抜けだして逃げようかな、と思ったが圧倒的強者過ぎる男から逃げられるわけがなく。
ガシ、と腕を掴まれたおれは出そうになった悲鳴を飲み込んだ。

「何処行く気だ……」

「シャワーでも浴びようかと……」

「……ん」

掴まれた腕が解放された。
シャワー室に入ったおれは再び頭を抱える。
全く覚えてません。なんて言ったら絶対に殺されるパターンのやつだ!!
なんとか思い出して!おれの記憶よ甦れ!と呻ってみたところで人生の一度たりとも酔っ払い時の記憶が甦ったことはないので、今回も無理だろう。
手早くシャワーを浴びて、ベッドで今だに横になっているドフラミンゴの傍に座った。

正座で。

「ドフラミンゴ様、お話がございます」

「あ?」

気だるげにおれを見たドフラミンゴに、深く深く頭を下げた。
いわゆる、土下座である。

「わたくし、昨夜の記憶が微塵もありません。どうか、どうか…全力で昨夜のことは忘れてくださぁぁいっ!!!」

「アァ!?」

決死の覚悟で土下座決めこんで謝罪したら、マジで死にかけました。ボコボコです。ボコボコのボコボコです。
両足切断して檻にぶち込んでやるとすごまれて本気で泣いて謝りました。謝り倒した結果、許してもらえました。
その許してもらえる条件が、ドフラミンゴを恋人にすることでした。

え?コイツ、おれのこと好きなの?一夜限りの関係じゃないの?え?マジ?と動揺するおれ、めちゃくちゃ怒るドフラミンゴ。

「おれのこと、愛してるって言ったよなァ!?」

覚えてないっす。
酔っ払ったおれはどんな口説き文句を言ったのか、今のおれには想像すら出来ないが、よっぽど甘い言葉を囁き、どっぷり自分に惚れ込ませたらしい昨夜のおれにこの言葉を送ろう。
マジで死ねおれ。

「おれ、酔っ払うと記憶無くなるんですぅううう!!!」

「知るかァ!責任取りやがれ!!」

結果、逃げられないし、恋人になるという選択肢以外が用意されていなかったので、おれは最強過ぎる恋人をゲットしたのであった。
そんな慣れ染めがあったのが、一年前。
最初は恐ろしいとビビリまくっていたのだが、付き合ってみるとドフラミンゴという男はとことん相手に尽くすタイプらしく……。
自分好みの服装にしてやると、おれに上等な服を着せて。自分の口に合う料理しか食わないとおれを高級なレストランに連れて行き。仕事なんてしなくても金ならある、とおれを傍に置いて養ってくれてるわけだ。
結果的におれの恋人、最高過ぎるんだが?

ああ、苦労なく幸せに暮らせるって素晴らしいなぁ!と思いながら、おれは最高過ぎる恋人に毎日ぺらぺらと愛の言葉を囁く。
言葉で身体で愛を伝えればドフラミンゴの機嫌も良くて、日々の生活に問題は無かった。
ただ一つのおれの欠点を除いては……。

そう、おれは酒癖が悪い……。

金もあって自由な時間もあって幸せなおれが酒を飲まないわけもなく。
また今日もおれは朝を迎えると知らない誰かが横で寝ているわけだ。
ドフラミンゴと付き合って一年、恋人が居るという認識はしているし、ドフラミンゴの事は好きだし、絶対に別れたくない存在なのだが、酒癖が治らない。
悪いとは思っているが、どうしても酒はやめられない。

うーん、と頭を抱えればこの一年で見慣れた光景となった、鬼の形相のドフラミンゴがドアをぶち壊して入って来る。

「ナナシ!!!」

「ごめんなさい……」

「テメェ!!!いい加減にしろ!!!」

このやり取りを何度しただろうか、
ドフラミンゴも今日こそはおれを見限って殺すんだろうな、と思ってもドフラミンゴはおれを殺さない。
おれの横で寝ていた知らない誰かが見えない糸で真っ二つになったのを見届けてから、おれは愛しい恋人を抱きしめる。

「ごめんな…でも、愛してるのはドフィだけだからな」

「…っ、う、ぐっ…」

誰に言っても信じないだろうが、毎回毎回、この男は整った顔を歪めて泣くのだ。
なんでおれなんか好きなの?まだ好きなの?こんな事が続いてもおれの薄っぺらい愛の言葉を信じるの?
大好きだよ、と囁けば、おれも、と涙交じりの言葉を返される。
本当に心から、ちゃんと思うのだ。申し訳ないなぁ、悲しませてしまって、おれは悪い奴だなぁ、と。
だから、ちゃんとおれはドフラミンゴを愛しているし、大好きだし、嘘は吐かない。本当に。

「ナナシ…っ、もう、酒、飲むのっ、やめてくれ…っ」

本当に。


それは無理


大好きだし、愛してるし、別れたくないけど、酒が飲めないならおれは死ぬ!!

「嫌なら殺して良いよ、ドフィ」

「……、」

「愛してるよ」

「……っ」

見限って真っ二つに切り捨ててくれていいのに。
おれを心から愛してくれるこの男に申し訳なくてたまらないのだが、酒はやめられないからどうしようもない。
ああ…、おれって真正のクズだなぁ…。

END

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