形代の紫
□花冠
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パイプオルガンが再び重厚な音楽を奏で始めた。
純白のヴェールとトレーンを引いて祭壇に立つ。
人間の結婚式のように司祭はいない。
「吸血鬼が神に愛を誓うなんて滑稽だからね。だから君と、僕自身に誓うよ」
枢はわたしを見つめた。
わたしも枢を見つめる。
「死が僕たちを分かつことはない。だから紫結、僕の永遠を君にあげる。だから、君の永遠も僕にちょうだい?」
「かなめ……っ」
今日泣くのは何度目だろう。
でも涙の止め方がわからない。
「返事を聞かせてほしいな」
「…今までもこれからも、わたしはかなめだけのもの。もうとっくにあげてるわ」
「君に僕の永遠を誓うよ」
枢はそう言うと、わたしの薬指に指輪を嵌めた。
わたしも震える指でもう一つの指輪を取って枢の指に嵌めこむ。
「貴方に、わたしの永遠を誓います」
「愛してるよ、紫結」
「かなめ……」
さまざまな思い出が頭を過った。
貴方と出逢ってから今日までの、切なくて苦しくて幸せで愛しい日々。
「愛してる…」
永遠の誓いを唇に乗せて。
至福のキスで蓋をして。
そっと瞼を閉じながら、これから始まる悠久の時に思いを馳せた。
-END-