形代の紫
□胡蝶
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枢が優姫さんの元へ行った後、更さんに連れられてひっそりとした小部屋に入った。
そんなわたしを、小さな男の子が色違いの瞳でじっと見つめていたことなど気付かずに。
「紫結ちゃん…」
更さんは全てを見透かすようなその青い瞳でわたしを見つめた。
初めて会った時から、この人はわたしと枢の関係に気付いていた。
それ以来、何かとわたしを気にかけてくれる。
「まだ無益な関係を続けているのね…」
深くゆっくりと、更さんは溜息を吐いた。
「止めなさいとあれほど言ったでしょう?枢さんは貴女を傷つけるようなことはしても、決して貴女を大切にはしてくれないわ」
「……っ」
「身体だけ求められてどうなるというの?貴女の心は壊れていくばかりでしょうに」
更さんの言葉はすべて本当で、なにも言い返すことが出来ない。
でも、だけど……
「だって…かなめから離れたら、生きていけない……」
留めることの出来なかった涙が、大きな粒と
なって零れ落ちた。
「まあ泣かないで。ごめんなさい、言い過ぎたわ…。だけどね、紫結ちゃん、愛してばかりじゃだめよ。
愛されることの幸せも知らなきゃだめ。紫結ちゃんだけを求めて、愛して、大切にしてくれる人のそばにいなきゃ」
更さんは慈しむような声でそう言いながら、泣きじゃくるわたしをやさしく撫でてくれた。
求められなくても
愛されなくても
大切にされなくても
わたしには枢しかいないのだもの。
紫の ゆゑに心をしめたれば 淵に身投げむ名やは惜しけき
(紫のゆかりのせいで心が締め付けられても、恋の淵に身投げることは惜しくない)