形代の紫

□少女
3ページ/3ページ


いつも見ていた、その姿を。
枢センパイと、その隣を歩く小柄な少女。


「みなさーん!下がってください!!」
「「「きゃああああ!!千里くーん!!」」」
「「「玖蘭先輩ーーー!!!」」」
「「「アイドル先輩こっち向いてぇぇええ!!」」」
「ちょっとそこ!押さないで!!」


黄色い歓声を上げる普通科生を押さえながら、目線はいつもその人の所へ。
誰よりも麗しく、誰よりも夜が似合う人。人ではない、ヒト。
あの雪の日、命を助けてくれた恩人。
憧れはいつのまにか恋になり、想いは強くなるばかりだった。
でも臆病な私は、見ているだけで精一杯で。

枢センパイはいつも一瞬だけ私の方を見て、優しく微笑んでくれた。
運のいい日は「お疲れ様」なんて声を掛けてくれたりもして。
センパイにとっては何でもないことなんだろうけど、私にとってはそれが何よりの幸せで。
でも、どんなに足掻いても越えられない壁の向こう側にあの人はいる。
その隣には、いつも綺麗な少女がいた。

少女の長い艶やかな髪の毛を、枢センパイは愛おしそうに撫でる。
その神秘的な紫の瞳を覗き込み、やわらかに微笑みかけて。
誰が見ても一目で大切にされているのだとわかる。
枢センパイのあんな眼差しは見たことがない。
深い想いが込められた、宝物を見つめるような瞳。


「優姫?どうしたんだ?ぼーっとして」

「…ううん、何でもないよ」

「まぁ、いつものことだけどな」

「ちょっと!それ酷い!」

「事実を言っただけだ」


羨ましかった。
あまりに自然に枢センパイの隣にいられる彼女が。
枢センパイにそこまで想われている彼女が。


日かげにも しるかりけめや少女子が 天の羽袖にかけし心は
(誰の目にも明らか。その心はあの少女に向けられていると)
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ