一
□過去拍手
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恋色洋酒
四月の満月の夜――。
ほんのり暖かい春の空気の中、外で酒瓶とグラスとおつまみを広げて一人月見酒。
パチパチと泡がはじける桃色の洋酒の水面に黄金を映す。
その液体を、全く進展がなく距離を縮められないでいる憧れの上司、綾瀬川五席を想いながら飲み干す。
昔からあるおまじないだ。
効果が有るかどうかなんて どうでもいい。
ただ 少しでも心の拠り所があれば、明日からも頑張れるから。例え彼の目には美しい物と斑目三席しか映らなくても。
いい大人が随分と子供っぽいことをしているな、と一人苦笑し更にもう一杯呷った。もうどれくらいの時間をこうして過ごしているのだろう。
綺麗な外見だけではなく、優しい中身にも、そして五席では有り余る程の強さにも惹かれた。
素敵な人だからライバルは多いし(周りに居るのが隊長や斑目三席や荒巻さんだから五席の倍率が上がるのは仕方ない。失礼な話だけど。)、実際隊舎内で話かけられても緊張してしまって上手く対応出来ない。
今日なんて頭に付いたこんぺい糖(副隊長の悪戯だ)を取って貰ったのに、礼も言わずに瞬歩まで使って逃げてしまった。
「ほんと…駄目な奴……」
涙が出た。お酒が回り出したのだろう。明日も大量の書類整理が待っているし、仕事に響く前にお開きにしよう。
そう思い、片付け始めていると
「あれ?もう終わりかい?お邪魔しようと思って、色々と持って来たんだけど。」と声がしてきた。
嘘、この声って――。
私、幻聴が聴こえるまで呑んでたなんて。
「良かったら僕に付き合ってくれないかい?もう大分夜も遅いけど、君と一緒に呑みたいんだ。」
しかも こんな都合の良い幻聴、恥ずかしい。
動けないで固まっているとクルッと後ろを向かされ、声が幻ではないことを知らされる。目の前に居るのは、綾瀬川五席だった。
「やっぱり、駄目かな?」
「そんなこと、ないです!寧ろ、一緒に、呑んで下さい!!」
緊張で声が上擦ったけど、返答も可笑しかった気がするけど、頑張った!!私!
いつもなら何も言えず「失礼しました!!」と瞬歩で去ってしまうところだが、おまじない効果なのだろうか。状況といい 行動といい普段の私からは想像もつかないことをしている。
「良かった。今度は逃げないでくれて。さっきやったまじないのおかげかな?」
持参した私と同じ洋酒をグラスに注ぎながらクスクス笑う綾瀬川五席から先程私と全く同じ事をしていたんだと教えてもらうまで、あと一分。部下から彼女へと昇格するまで、あと三分。
その前にもう一度水面に月を浮かべてから、二人で乾杯をしよう。
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似非弓親さんでした。
拍手の時より長ったらしく、ダラダラとした感じにしました。
スピード感無い文ってなんか好きなんです。
また書き足してしまうかも…
2010年8月22日