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□unfair
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それは、苦しい程切ない口付けだった。息が詰まるくらい哀しい一瞬。けれど涙を流すことは許されない。零れてしまえば全てが終わってしまうから。
「……」
沈黙。彼はこの部屋を去ってしまうだろうか。運命という名のガラス玉はすでに坂の半分を転がり落ちて行ってしまっている。止まらない。止めることも勿論出来ない。自分はベッドの上で眠りに落ちている振りをしているのだから止めようが無いのだが。
カサ…
紙の擦れる音が聞こえる。どうやら彼は帰らずにリビングで新聞を読んでいるようだ。薄く目を開き、右の人差し指と中指で軽く唇に触れる。
たった、一瞬。
それだけの行為だったのにこんなにも熱い。これから彼と自分は決して同じ道を歩むことはない。ぶつかり合い、どちらかが倒れる運命なのだ。自分は倒れるつもりはない。つまりそれは、この手で彼を終わらせるということなのだ。
―――――やめよう。
いつまでこんな桃源郷のような世界に居られるのかは分からないが、終わりは近い。それだけは分かっている。それならば、今は気付かない振りをしてこの狂わしい程の切ない喜びに浸っていよう。誰に願えばいいかなんて知らないが、どうかこの幻が夢でも現れるように。そう願い再び瞼を下ろした。無駄な願いだと分かっていたけれど。
転がりきるまで、
あと一週間。