gift

□ふたりのキセキ
1ページ/1ページ



私が3年生になって、初めてテニスの試合に吹奏楽部として応援に行くことになった今年の夏、

私は初めて彼に出会った。



毎年、夏には自分達のコンクールが終わった後
あまり日が経たずに、テニス部の試合の応援にいくことになっている。
それは、大体3年生が行くことになっていて、
そのあとすぐ3年生は引退になる。
彼ら、テニス部の夏と私達吹奏楽部の夏がテニス部の敗北によって終わる。

そして今年もその瞬間が訪れようとしていた。



うちの学校はそんなにテニス部が強くない。
いつも2回戦あたりで敗退してしまうのだが、
今年はなぜか運がよく、準決勝へ出場することが出来た。

でも、運もそこまでだった、
準決勝で当たった相手は、全国レベルの強豪中の強豪、立海大附属だった。



S3,D2と終わり、2連敗。
S2でストレート負けか、とか思いながらトランペットを吹いていると、
相手の選手が転んで怪我をして、棄権となり、
勝負はD1に持ち越された。(S2の人は殴られていて可哀想だった)
少しでも長くトランペットを吹いていたい私にとって、
それはとても嬉しいことだった。


でも、またそれも夢みたいなことで、
夢もそんなに長く続くはずもなく。


”ゲームセット”


そんな声が響く。
夏が終わってしまった。

テニスコートでは打ちひしがれる私の学校の人と、立海大附属の人が握手をしていた。
最後までしっかり見ようと思って、見ていたら、
なんだかふと、向こうの赤い髪をした人と目があった気がした。
確かD2の人だったな、なんて思いながら
手元のトランペットに目を移すと、
今の私の気持ちに反して、光り輝いていた。




試合が終わり、外に出る。
大分時間が経っていたせいか、周りにはほとんど人はいなかった。
これで終わり、という気持ちで涙が出てきそうになった。
もう、私がトランペットを触ることはないかもしれない。
そう思うと、なんだか悲しくなってきたので、思い切りトランペットを吹いてみる。

とても綺麗に響く、トランペットの音は
私の3年間の成果。
自慢できる、私だけの音。



「お前、ラッパうまいんだな、」
『・・・へ?』



吹くことに集中していた私は全く近くに人が来ていたことを知らなかったので、
とっても初対面の人に出すとは思えないまぬけもいいとこの声を出した。


『あ、立海大附属の・・・』
「俺のこと知ってんの?」
『いや、見たことあるだけ。』


立海大附属のって言ったらめちゃくちゃしかめっ面された。
なんだか気に障るようなこと言ったみたいだけど、
まあ、いいや。


「お前なんていうの、」
『何が?』
「な・ま・え!」


つか、なんで初対面の人にこんなに普通に話してるんだろ、
私、人見知りだった気がする。
この人がなんだか優しそうだったからかな。


『高倉静奈。』
「ふーん、俺は丸井ブン太。立海大附属の。」


シクヨロ、といって無邪気に笑った彼は、
とてもかっこよかった。
人見知りなんか忘れちゃうくらいに。


『ねえ、』
「ん?」
『友達になってよ、』


丸井くんの顔が、あまりにもまぬけな顔をしたから、
思いっきり噴きだしてしまった。
私につられて丸井くんも爆笑。
周りから見たら変な光景だったと思う。


「もちろんだぜい!」
『ほんと?』
「おう!お前の学校、遊びにいってやるよい!」


じゃあな、と走り去った丸井くんの背中は、
とってもかっこよくて、
なんだか惚れてしまった。


簡単に言うと、好きになってしまったのかもしれない。





ふたりのキセキ

(君を見つけ出した僕のキセキ)
(話しかけることが出来た私のキセキ)
((二人の心は一つになる、))




一週間後、


「遊びに来たぜい!」


赤い髪をした彼は、
本当に遊びに来てくれました。
好きだ、という言葉と共に。

(私、学校教えたっけ?)
(お前のこと、試合の時からずっと見てたもん)
(う、嘘!)





―――――キリトリ――――――
蒼薔薇会設立記念作品交換会提出作品

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ