僕の妹

□02話 邂逅
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傷だらけの小さな手を握り締めた、あの日から。


守るって決めたんだ。


誰より大切な、




君は、僕の妹。






僕の妹
 02話 邂逅





それは、俺が7歳の冬。


突然の事だった。いつものようにテニススクールから帰り、父と母と3人で仲良く夕食を食べた。今日はラリーが何回続いたよ、サーブが上手いって言われたよ、そんな他愛のない会話の切れ目に、父と母が一瞬お互いの顔を見合せ目で合図を取った。


「精市、大事な話があるんだ」


いつもより少し低くく重いトーンの父の声に、これは何か重大な話なのだろうと子供ながらに悟った。


「なに?」
「ああ…精市、突然なんだが、おまえに妹が出来る事になった」
「いもう…と?」


俺に、妹?父が発した言葉に上手く頭の中を整理出来なかった俺が、それでも母の方を見なかったのは、母が俺に兄弟をつくれない体だという事を幼いながらに理解していたからだと思う。


「…どういうこと?」
「親戚に…精市に会わせた事は無いんだが、実は父さんには妹がいるんだ」
「父さんの、いもうと?」
「ああ。その人の娘なんだが…わけがあって、悲しい想いをしている。うちで引き取ってあげたいんだ」
「…母さんは?いいの?」


ちらりと母の方を見れば、情の深い母は慈しむように話し出した。


「うん。お母さんもね、最初は少し驚いたんだけど…でも、そういう子がいるのなら、お母さんはその子の家族になりたいと思う」


それに女の子欲しかったしね、と続けて微笑んだ母は、とても温かい表情をしていた。


「どうだろう、精市。父さんは君の意志も尊重したい」


そう言った父の瞳は、まっすぐに俺を映し出していた。その時、消え入りそうに小さな小さな声が。ふと、耳に届いた気がした。


「…その子」
「ん?」
「泣いてるの?」


何故だろうか。まだ出会った事も、顔を見た事さえないのに。なんとなく、泣いている気がしたんだ。


「…あぁ」


そうか、泣いているのか。だったら。


「僕、なるよ。その子のお兄ちゃんに」










次の日、父は朝早くから出掛けて行った。夕方過ぎになって戻って来た父は車の助手席に幼い女の子を乗せていて、俺は母と玄関で出迎える。


「母さん、精市。この子が静奈ちゃん、今日からこの家の家族だ」


父にそう紹介された彼女は、とても怯えた顔をしていて、僅かに震えているようにも見えた。5歳だと聞いていたけれど、それにしてもいくらなんでも小柄過ぎるんじゃないかと思う程、小さな女の子だった。それに、異常に痩せている。


「まぁ、可愛い!静奈ちゃん、遠かったから疲れたでしょ?さあ、上がって上がって」


そう言った母の声にも、家の中へと促す父の声にも、彼女は反応しなかった。ただ、黙りこくってその場に立ち尽くしていた。無視をしているわけではないのは、子供の俺にもわかった。でも、やっぱりまだ子供だったから。


今思えば無神経というか、なんでそんな行動に出たのかは覚えていない。多分、反射的なモノだったのかもしれない。


俺は数歩前に出ると、ふわりと彼女を抱き上げた。突然上昇した視界に驚いた彼女は目を見開いたけど、その瞳にやっと俺が映り込んだのがわかると嬉しくて、俺はそのまま彼女を抱き締めた。


「よろしくね、静奈。今日から僕が君のお兄ちゃんだよ」


ギュッと抱き締めた背中は折れそうに細くて。




俺はこの子を自分よりも、世界中の誰よりも大事にしようって決めたんだ。




To be continued.

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