Novel 5
□縁は異なもの粋なもの
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「お〜はよッ!進(シン)ちゃん!」
ぎゅうううっ、と音が聞こえそうなぐらい思い切り首元に縋り付いて、頬を擦り寄せてしがみつく人間に、わたしの眉間がぴくりと僅かに脈うった。
「…おはよ、エン」
眼鏡をかけた、如何にも勉強が出来ますという知的な風体の進之介は、なんでもないように背中の人間に朝の挨拶を返す。
まるでそれが日常のワンシーンであるかのように。
実際、日常のワンシーンなのだ。
今日も昨日もそのずうっと前も、こうしてあの人間は進之介に会えば必ず抱き着くことを止めない。
「ちょっとそこ!お兄ちゃんから離れて下さいっ、縁(エニシ)先輩っ!!」
そして二人を剥がしにいくことが、このわたしの役目なのである。
「えーッ、密杷(ミツハ)ちゃんの意地悪ーッ。朝から二人のユージョー破壊する気ー?」
「ホントにただの“ユージョー”ですかっ?べたべたべたべた、お兄ちゃんにくっつかないで下さい!」
「スキンシップだってば〜」
「信じられません!」
「密杷」
落ち着いた少し低い進之介の声がわたしの名を呼んだ。
どきりと一瞬緊張の膜がわたしを包む。
「な…に?」
「腕、痛い」
言われて腕に視線を落とすと、上に乗っかった縁を引っ張り落として無理矢理剥ぎ取るために無意識に進之介の腕に力を入れていたことに気がついて、慌てて手を離した。
「ご、ごめん!」
「エンも。いい加減重たい」
「これはオレの愛の重みじゃーん?」
へらへら緩い笑顔で縁はキュッと進之介の首に腕を回した。
まるで恋人同士のように。