Novel 5
□北北西に進路をとれ
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今日もその扉を開くと、彼女はそこに居た。
パイプ椅子に脚を組んで、長机に肘をついた何やらアンニュイな態度で(ちなみにアンニュイの意味は今日の現国の時間に初めて知った)なにやら紙のカバーを掛けた文庫本を読んでいた。
いつものお決まりの言葉を、僕は彼女に問いかける。
「何読んでるんですか?」
「ライトノベル」
「面白いですか?」
「私の主観で言うならば、まあまあ。しかし客観的に言うならば、ハッキリ言って駄作だろうね」
そうだ。
この人は山のように、それこそ尋常じゃないくらいの物語を読んできている癖に、特に駄作、二番煎じ、三文小説と言われる類いのものが大好きなのだ。
偏愛、狂愛していると言っても過言ではない。
「昨日はノンフィクション小説だったのに、今日はライトノベルとか、いつか食べ合わせ悪さで消化不良をおこしますよ」
「私、胃だけは丈夫だから大丈夫」
本当かよ。
なんとなく気になって、彼女が手に持つ本屋で掛けてくれたであろうカバーの向こうを透かして見えるか頑張ってみたけれど、無理だった。
ここは素直に聞いてみる。
「どんなライトノベルなんですか?」
「当ててみなよ」
さすがにすんなりとは教えてくれないか。
それならば外堀から攻めてみる。
「ちなみにレーベルは?」
「前向文庫」
「なんですかそのネガティブな名前のレーベルは!?」
【暗い貴方も、これさえ読めば前向きに成れる前向文庫!】
そんなキャッチフレーズが思い浮かんで、少しゾッとする。
なんて名前だ。
「違うわよ。
【読めば気持ちが前向きに!前向文庫】よ」
「それ、あんまり違い無いのではありません?」
つーか、ほぼ一緒じゃないのか?
ライトノベルのはずなのに、込める意味重すぎるだろ…。