『あかね』 「、え?」 『?、でしょう?名前。』 「…はい、?」 僕の名前を呼ぶにしては心当たりのない高めの声が響いて、読んでいた本から視線をあげた。 『どっこいしょ、と。』 「……(誰だろうこの人…)」 空いていた僕のひとつ前の席に後ろ向きに座って、ジーッとこっちを眺めてる彼女。ホント、誰なんだろう。どうして良いかわからなくなって、とりあえず本にしおりを挟んだ。 『いっつも本読んでんね』 「え、は、はい…まぁ…」 『それ面白い?』 「えっと、それなり…に、」 名前のわからない彼女との会話はどこまで続くのだろうか。僕の手から本を奪ってパラパラめくり出す彼女。やっぱしおり挟んどいてよかった。 『…字ばっかり』 「え?は、まぁ、そりゃ…」 『ねぇあたしのこと見えてる?』 「………、はい?」 いきなり僕の目の前で手をひらひらさせて首を傾げる彼女。この会話の流れでどうしてこうなったのか。そして彼女は誰なのか。………まさか…幽霊? 『…え、なに、握手するなら言ってよ、びっくりする』 「………よかった触れた、」 ひらひらさせてた手を握ってみた。僕より少し小さい手はしっかりと掴めて、少し安心。 『なに、手ぇ握ったりして』 「…え、わ、ごめんなさい!」 『……え…いいけど、見えてる?』 「見えてます」 『なぁんだ』 とたんにつまらなそうな顔になる彼女。理由はよく、わからないけど。それにしても幽霊でもないくせに、何でそんなこと聞いてくるんだろうか。理由が気になって、じぃっと見つめてくる瞳を見つめ返したら、その瞳がずいっと近付いてきた。 『いつも眼鏡だから、これくらい近づかなきゃ見えないかと思ったのに』 「…、っ!」 ふわり。ほんとにこの言葉にぴったりな笑顔で彼女は笑った。コロコロと変わる表情の中で1番綺麗に笑った。よくわからないまま急に呼吸が上手に出来なくなった。名前も知らない彼女の表情に、僕の感情まで操られてるような気になって、少しだけ語尾が強まる。 「…っこ、コンタクトです!」 『なぁんだ、そっか。わたしあかねの眼鏡好きなんだけどな』 「…っ!」 『じゃあね、明日は眼鏡だと嬉しい』 そのまま再びにこりと微笑んで立ち去る彼女。次は名前、聞けるかな、なんて期待してる自分に驚いて、僕は再び本を開いた。 スカート、ひらり (翻す姿に、) ーーーーーーーーーーーーーーーー 表情豊かな女の子と目の悪い男の子 |