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□とりあえず、最初は下着だな
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『いい?ほんとにいくよ?』
「はい、お願いします」

床に新聞紙を敷き詰めてその中心に座る雷蔵くん。その背後にたってハサミ片手に顔を覗き込むと、にっこり笑って肯定の返事。どうやら悩むだけ悩んで、結論が出たらざっくり物事を考える子みたいだ。あたしとは、正反対。あたしはほとんど悩まず決断するわりに、いざ行動に移すとなるとどうしても慎重になってしまう。

『よし、いく!』

ふわふわできれいな色した髪の毛にざっくりハサミを入れる。床の新聞紙に髪の毛が広がって、それを眺めながら雷蔵くんが呟く。

「……ぼくが髪切ったの知ったら三郎も髪短くするのかなあ」
『三郎くん?友達?』
「あ、はい。同じクラスで、いつもぼくの変装してるんです」
『変装?なんか忍者っぽい』
「一応忍者ですから、まだタマゴだけど」
『あはは、そうか』

帰り方がわからない今、この世界に順応するのが第一条件だ。雷蔵くんもそれはしっかり理解してるんだろう。でも、まだ14歳だ。ウィキが言うには。友達だって、家族だって…どう考えても辛いだろう。今こうして笑おうと、ある種の開き直りみたいなものをしようと思えるのは彼が忍者だからなのだろうか。彼はいったいどんな世界を生きてたんだろうか。

『雷蔵くん、忍者、楽しい?』
「え?」
『……ごめん、なんでも、』
「……忍者は、人を殺めます」
『……え?』
「人間の嫌な部分もたくさん見ます。でも、目的をもって忍術学園に入ったんです」
『……うん』
「そのなかで、忍術を学んで、仲間が出来て、そんな毎日は、楽しいです」

仲間も、敵になる時がくるかもしれない世界だけど。その呟きで、あたしのハサミを持つ手が止まった。そんな世界を、生きていた子なんだ。ただ何かが変わってくれないか、それだけを受身の状態で待ち続けて、ただ当たり前の日常を過ごしてきたあたしとは、文字通り次元が違う。

『雷蔵くん…頑張ろうね』
「……はい」

頑張って、帰り道、見つけようね。何をどう頑張っていいかわからないような状態で、この子はあたししか頼れる人間が居なくて、右も左もわからない世界に放り出されて、でも、この子は笑おうとするから、あたしも一緒に頑張るよ。

『さ、どうだい』
「わ、すごい」
『短いのも似合うじゃない、すっかり別人だけど』
「こんなに短いの、いつぶりだろ…」
『でも、素人が簡単に切っただけだから、買い物行った時にでも美容院行こうね』
「はい!ありがとうございます」

鏡の中のすっかり別人になった自分の姿を面白そうに眺めてる雷蔵くんを見て、あたしも自然と笑顔になった。さて、次は着替えか、とルームウエアにでもしようと思って買ったまま放置してたサイズフリーのパーカーと某スポーツメーカーのジャージを引っ張り出してきた。

『とりあえず、雷蔵くんでも着れそうなの出してきたけど、どうかな』
「あ、ありがとうございます」

パーカーは頭からすっぽり被って、なんて1から説明を始めると、いきなり上着(?)を脱ぎだす雷蔵くん。

『え、ちょ、ちょっ』
「え?」
『あっち、で、着替えといでよ』
「あの、どうやって着るのかとか、よくわかんなくて」
『あ、あぁそっか、ごめん』

それもそうか。相手は14歳だ、6つも年下じゃないか。そう言い聞かせるけど、現代のもやしみたいな14歳とは筋肉のつき方とか全然違って、いやいや何を見てるんだあたしは。でも、やっぱり、忍者、か。

『そう、ほら、すっぽり被って頭と腕出して、』
「おお、楽ですね」
『そう?下は、平気かな、ただ穿くだけだから』
「はい、これなら」

そう言いつつその場でズボン(袴?)を脱ぎだす雷蔵くん。なんで少しも躊躇してくれないんだ、1人で恥ずかしいあたしが馬鹿みたいだ。

『……って、えええええ』
「…?」
『ふ、ふ、』
「ふ?」
『ふんどしいいいい?』
「?、はい?」

そもそも二次元のお方がこの場に居る時点で超常現象、もうちょっとやそっとじゃ驚かねえ!なんて思ってたのに、ナマでこんなの見るとやっぱり驚く。こっちの方がリアリティ強いし。




とりあえず、最初は下だな









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ヒロインは二十歳。


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