『とりあえず、何を説明していいのかわからなくなっちゃった』 「あの、ぼく帰り道がわからなくて、ここ、どこですか?」 「ここ、どこですか?」雷蔵くんが初めてあたしに質問らしい質問をした。もっと聞きたいこともあるだろうに。ウィキによれば、彼らの時代は室町、戦国とか、たしかその辺(既に曖昧)。 『ここは、うーん…そうだな、未来、かな』 「………は?」 『……だよね、そういうリアクションになるよね』 「あの、ぼく、帰れますよね?」 『それは、うん。あたしにはなんとも』 「……どうしよう、ぼくやらなきゃいけないこといっぱいあるのに、委員会も、授業だって、まだいっぱい、」 『……落ち着こう。そんで、一緒に、考えよう』 取り乱した雷蔵くんの頭を軽く撫でる。きっとこのリアクションが正常だ。今の今まで現状理解も出来なくて、取り乱すことも出来なかったんだろう。あたしは再びパソコンの前に戻って目の前の画面にざっと目を通す。ぼんやりとだけど残っていた小さいころの記憶。忍者を目指す少年たちのアニメ。忍術学園、その単語があたしの記憶に引っかかってよかった。 「あの、ぼくどうしたら…どうしよう、」 『そうだね…どうしたらいいか、わかるまであたしも一緒に考えるよ』 「……え、?」 『だから、わかるまで、ここに居な』 「……え、あの、いいんですか?」 『うん、乗りかかった船だもんね』 少しだけ目に涙を浮かべた雷蔵くんに優しく、優しく見えるように笑って見せる。当たり前だった日常から抜けだせるんだ。これくらい、なんて思えるほど簡単なことじゃないのはわかってるけど、今にも泣き出しそうなこの目を見て、突き放せるほど冷酷になれなかった自分が悪い。たぶん。 『そのかわり!家事だって手伝ってもらうし、役割分担はしっかりやりますからね』 「……っ…はい!」 出来るだけおどけて見せると、嬉しそうにいいお返事が返ってきた。そうと決まればさっさとここで雷蔵くんが生活できるだけの準備をしなきゃ。決断力だけはあると自負している。 『まず、その格好だね。申し訳ないけど、ここじゃ目立ちすぎるな』 「はい、お任せします」 お任せって。そんなざっくりしてていいんだろうか。でも、目立ちすぎるのは事実だ。グーグル先生が言うには忍たまの原作?が今、ある層にはすごくブームになってるらしいから、雷蔵くんを知ってる人もいっぱい居るだろうし。 『とりあえず、髪を切ろう。』 「はい、あの、お願いしてもいいですか?」 『ええ?あたしがやるの?』 「……?はい、お願いします」 『いや、ほら、プロに』 「あぁ、髪結いさん、居るんですね。」 『髪結いさん?ああ、うん。たぶんそんな感じ』 「でもこの格好のまま出るのも……いや、いきなり髪切れってすごく迷惑な話…えっと、」 『うん、わかった。あたしが切ってあげる。でも絶対後で美容室行こうね』 「?はい、」 ウィキに書いてあった迷い続ける悪癖、とは本当らしい。あたしはなんでもあっさり決めちゃうから、あたしに決定権がある限りは雷蔵くんが考えたまま寝ちゃうなんてことはないだろう。ウィキに書いてるのが本当だったら。 情報化社会に感謝。 --------------- 果たして社会人ヒロインを書けるのか… |