Black World
□至上の愛2
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「鋼の大将っ!」
「えっ…あっ」
「これ、綺麗に結んでやんな〜」
渡されたシルクのネクタイを預かり、手を借りながら衿に通してゆく、結び目だけは、少尉の手まねを見ながら結び付けた。
『上出来だな。』
「んっ?何か言った?」
大佐が話かけて来たのかと思ったが、それはただの空耳で、少尉は不思議そうな顔でオレを見た。
「どうした?大将?何も言ってないッスよ。何か聞こえたんですか?もしかしたら大佐、気にいらないんっすかね?」
少尉は笑ってオレを見た。
柩に運び入れ、、綺麗に身を再度整えられた。
中尉から小さな取っ手付きの鞄が渡されると中身は化粧道具が入っていた。
「私の使ってる物で申し訳ないけど…。最後、エドワード君の手で仕上げてあげて、あまり揃ってないけど好きに使ってくれていいから。」
「ありがとう少尉。お借りします。」
二人はそっと部屋を出た。
気を使ってくれたのだろう…。
傷をつけない様に、顔を剃り、中尉に借りた、化粧水を塗り、下地で目の回りの影を消し、白粉を薄く叩く。チークブラシを使って、軽く頬に赤みをいれ、眉も綺麗に整えた。最高の笑顔を見せてくれた時の柔らかな眉を思い出し眉尻に色を足し描く。そして何度となく合わせた軟らかな唇に紅を差す。
指先に掬い薄く延ばすと、今にも笑ってくれそうな三日月の口元が現れた。
「大佐、男前の完成だ、あの時みたいだ…。」
ずっと青ざめていた顔は、自然に仕上がり、生前の姿とは変わらない、今にも起きてきそうな大佐がそこにいた。
最後の仕上げにもう一度髪を梳き、スタイルを整えれば、何時もの大佐の姿…昼過ぎの執務室の窓際でひなたぼっこしながら、うとうと気持ち良さそうに眠っている。そんな表情がそこにはあった。
「出来たよ、こんな感じでいいよな?オレ、こっそりネクタイ締める練習してたんだぜ。大佐がスーツ着た時に結びあいっこしたくてさ、多分アンタは下手くそとか言って自分でやり直しそうだけど…。
こんな形でしか出来な…い…何……て…アンタ何様何だよ!」
終わると同時に、オレに突然何とも言えない寂しいが襲い緊張が解け、柩に手をかけて号泣した。
二人とアルが入っていなや、3人は驚愕した。
誰に見て頂いても感心されそうな、見事な出来栄えで、その出来栄え故に余計に悲しみを誘い、4人の泣き声が部屋に響いた。