WonderfulWorld

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現実は優しくない。

大佐は何時もオレの事、こんな気持ちで見てくれてたのかな?


昼からの日だまりが出来るこの場所がオレの特等席。

    ********


 病院の近くのあの宿…上げ膳据え膳な主がいて、オレが不摂生したり、暴走しない様にと監視も兼ねてだろうな…多分。
その一室を提供してもらい、自分の通院もかねて、アイツの部屋に行くのが日課。オレの割り当てられた部屋は以前中尉もいた部屋だ。
ベッドとクローゼットと机と椅子。いたってシンプル。後はトランク。

クローゼットには、セピア色のコートと、アイツが着てた服やワイシャツ。
 中尉があの小屋が封鎖される時に持ち出したもん。服はかなり大きいんだけどな。
後は、中尉が見繕ってくれたりとか…

東方の仲間達は北の地を離れ、任務に戻りオレは、北の地に残った。

 環境もいいし自分の養生にもなるし、何よりもアイツが居るから。それに他人に任せられないし。


 季節か変わったと言っても、まだまだこの地は寒い。

 オレの病院に行く時の何時ものスタイル。
ロングブーツに身体に全然合ってない黒のコート。
大佐が着てた分。

 何となく胸のポケットに手を入れると、何か出てきた。見慣れた包みとオレの咳止め。
それとオレの手袋だった。それも昔の…。

オレは涙をこらえてポケットに戻した。

『アンタ、何処まで先読みして考えてたんだよ…』

涙が我慢出来ずに頬を伝う。

行かなきゃ…。オレは宿を飛び出そうとすると、宿の主(実は恰幅の良い主以外に昼間働いているもう一人の主)に止められ涙顔をしっかり見られてしまった。
「駄目よ、そんな顔で彼に会いに行ったら。彼に伝わっちゃうわよ。素敵な彼だもんね、貴方の彼。先に顔洗って来なさい。それとこれも持って行きなさい。ショール、何枚あっても困らないでしょ?」

オレは言われた通りに顔を洗い、有り難く頂戴するとやっと宿を出た。


何時も通りの手順。日だまりの出来るこの場所に座り、昨日から今日の出来事を報告するのが日課。

アイツの手の平を包み自分の頬に寄せたり、その指で遊ぶ。

「早く目覚ませよ、大佐。後、宿の主がショールくれた。アンタに惚れてるみたいだよ。
アンタ寒がりだからかけておく、何回かあの小屋にいる時に寒いって言って、オレの事カイロにしたよな。あっためてやるから、早く帰ろうよ……」
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