◇捧げ物小説

□本心はまだ語れない
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いつだったか、黒崎はどこか遠くを見て言った。


「早坂くんは、喧嘩して楽しい?」


あぁ、楽しいよ。
そう答えると黒崎は悲しそうな、それでいて困った様な曖昧な笑みを返された。

なんだというのだろう。

そもそもお前は喧嘩なんて縁のない奴だろう?
それとも何かほかに意図でも?
俺はお前じゃねぇから言ってくれなきゃわかんねぇよ。

俺が怪我することがそんなに嫌なのだろうか?
俺が怪我するたびに何かとあいつは五月蠅かった。
…馬鹿みてぇ。
痛いのはお前じゃないだろうに。

心配するのが『友達』というものなのだろうか?
考えてみれば『友達』と言えるような奴はおそらく黒崎くらいしかいないから分からない。


「…おい、黒崎」

「ん?どうかしたの?早坂くん」

「いや、ちょっと前の話なんだけどよ…お前一回言ったよな。『喧嘩は楽しいか』って」

「…言ったね。…早坂くんは『楽しい』って答えたね」


あぁ、まただ。
また、黒崎はあの笑顔だ。
どういうわけかその顔が堪らなく嫌だった。
…胸の奥が、痛むような気さえした。
いつもヘラヘラしてるくせに、なんでこんなことでそんな顔するんだよ。


「…また、その顔か」

「へ?」


そう言うと黒崎は間の抜けた声を出していつものアホ面に戻った。


「え?え?私なんか変な顔でもしてた?」

「いや…なんつーか…」


つらそうな顔だった、と言うべきだろうか。
俺はどう言えばいいのか分からない。


「ま、まぁ顔はどーでもいいんだよ。並みまっただ中なのは変わんねーし」

「わっ悪かったね!!」

「いや、だからそれは気にしなくていいんだって!」


黒崎にそう言うが、怒ってこっちを見てくれやしない。


「…まぁいいや。話、戻すけどよ…お前なんであんな話したんだよ」


黒崎は少しの間黙ったままだった。
その間がなんとも気まずい。


「…私はさ」


口を開いた黒崎の声は、少し掠れていた。


「私はさ、学校生活ってとても大切で楽しいものだと思うんだ」

「…はぁ」

「部活したり友達と遊んだり、楽しいことっていっぱいあるよ。
…早坂くんにもそれを実感してほしいって…思ってる。
だけど早坂くん喧嘩止めないし、怪我…いっぱいするし…それにっ」


言葉に詰まったのか、少し間を開けると黒崎はまた曖昧に笑って「何が言いたいかわからなくなっちゃった」と呟いた。


「…なんとなくなら、わかる」

「え?ほ、本当?」

「あぁ。…でもやっぱ俺はやめられねぇや、喧嘩」


俺は先程の黒崎のように曖昧に笑った。

俺は少し前までの俺とは違う。
誰かとつるんで行動することが、どれほど楽しいか、居心地がいいか、それをもう俺は知っている。
毎度毎度佐伯に酷い目にあわされることもよく理解できない由井の言動や、何故かよくつるむ桶川の理不尽さも、全部気づいたら日常になっていて、それを楽しいと思うようになっていた。

全部全部、黒崎に会ってから。
全部全部、黒崎が変えた。

知ってるか?黒崎。
俺はお前に感謝してるんだよ。

お前がくれた『今』が俺はすげぇ好きなんだ。
そして何より、お前のことが。

だからこそ俺は力が欲しい。
守るための力が。
だから喧嘩は止められない。
弱い自分では駄目なんだ。

日常を

そして、

黒崎…お前を守りたいんだ。


「…そっか」


黒崎は黙り込んだ俺を見てそう短く言った。



「…でも、やっぱり喧嘩しすぎるのは駄目だから、無茶な喧嘩はやめてね」

「おぅ、努力はする」


そう、努力…は。


『無茶な喧嘩はやめてね』

そう言った黒崎の言葉が響く。


それは、お前を守るための喧嘩でも…だろうか。

それなら俺はきっと、…いや、絶対守れない。


でも、…いや、それだからこそ


好きな奴くい………お前くらい守らせてくれ。


…なんて今はまだ本人に言えやしないから。

だから今はあんな理不尽なことしかお前には言えない。


「……悪い」

「え?」

「…何でもねぇよ」

「?…変なの」


少しムスッとした顔をして、そう呟いた黒崎を見て俺は小さく笑った。



end.
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あとがき

久しぶりに早→真を書いたので少し無茶苦茶かもしれませんが、気にって下さることを祈ります…。

かなり遅くなってしまいすみません…。
少しでもリクエストに答えることができていればいいのですが…。

この度はリクエストしていただきありがとうございました!
これからもサイト共々よろしくお願いします!
 

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