◇捧げ物小説

□初めてのお宅訪問
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俺と黒崎が付き合い始めて随分と経った。

いわゆるデートとやら(といっても二人でぶらぶら歩くだけだが)をしたり、少しずつだが俺たちは「恋人」らしくなっていると俺は思うわけで。

さて、ここからが本題だ。



…黒崎の家に遊びに行くことになりました。



そもそも俺は誰かと付き合う以前に、女子の部屋に入ったことなどないし、それ以前に黒崎の部屋ってどうなってんだよとか色々不安な点がある。
…あいつ掃除とかちゃんとしてるんだろうか。
流し台とか見たらコンビニ弁当の空箱だらけだったりとかしないだろうか。

って、俺はあいつの母親かっ!
…ほかに気にすることは大量にある…が、まぁ行ってみないことには始まんねぇよな。

ズボンのポケットに入れた、黒崎に書いてもらった家までの地図を取りだして歩き始めた。



「…えーと、ストロベリーハイツの……お、ここか」


特に迷うこともなく、俺は無事に黒崎の家へ辿り着く。
…さて、何が出るのか。

ピンポーン

インターホンの音が鳴り響く。

ガチャッ


「あ!早坂くんいらっしゃーい!!」

「おう」


黒崎は笑顔で俺を出迎えると、俺を中へ通した。

(へぇー、以外に片付いてんのな)

一度は考えた、ゴミ屋敷状態という最悪の状態ではなかったことに、俺はひとまず安心した。

黒崎の部屋は、散らかってはいなかったが俺の思う『女子の部屋』らしい部屋ではなかった。
ぬいぐるみの類は一応置いてあったが、…なんだか髭の付いた意味のわからん猫のような大きなぬいぐるみがドン、と床に座り込むようにして置いてあった。

(…女子ってこういうもん好きなのか?…なんか、ちょっとイメージと違うな)

飾り気のない部屋をぐるりと見渡すと、コンビニの袋に目が行った。

「ったく、お前やっぱりコンビニにばっかり行ってんのか?たまには自炊しろよ」

「え!?いやいやっ!自炊してるよ?一応!」

「一応ってなぁ…」


俺が苦笑すると、黒崎は「お腹すいてない?」と言って台所へ向かった。


「自炊ができることを証明してあげるよ!」

「まぁ、期待はしないぜ」


黒崎は不服そうな顔をしたが、すぐ調理を始めた。

…のだが。


「いっっっっっったぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


それはすぐに終わった。


「…黒崎、お前料理ヘタすぎだろ」

「いや!別にいつもじゃないよ!?今日はたまたまだよ?まぐれだよ?いつもはもうちょっと…後で指切るもん」

「切るのかよ結局!!!」


俺が怒鳴りつけるようにそういうと黒崎はしゅんとした。


「いや、ちょっとでも女の子らしいとこ見せようとね?見栄はってみたというか…うん…ごめん料理下手ですハイ」

「…別にそんなこと気にしねぇよ。今更。俺が好きなのはいつも通りの黒崎なんだから」

「っ!…早坂くん、今すっごい恥ずかしいことさらりと言ったね」

「う、うせぇな!!そ…それより早く傷どうにかしろよ!消毒とか!!」

「いいよいいよ。舐めとけば治るしー」


未だからかうように笑う黒崎を見て、何となく癪に障ったので仕返しとばかりに黒崎の手をとり傷口を舐めた。


「!?」

「な、舐めときゃ治るって言っただろ?…だから、消毒」

「……早坂くん顔真っ赤だよ」

「…顔真っ赤な奴が何を言う」



初めて行った黒崎の家。
俺たちは空腹だったのも忘れて笑った。
お互い顔は、真っ赤なまま。





―初めてのお宅訪問―






「今日はごめんね、ご飯結局作れなくて…その、カップ麺になっちゃって」

「気にすんなよ、それくらい」

「こ…今度また来てよ、私の家。もっと料理上手くなるからさ!」

「…指、傷付けまくるんじゃねーぞ?」

「きっ切らないよ!!…多分」


俺は小さく笑うと、黒崎に「また明日」と別れを告げて家を後にした。

―…黒崎と過ごす日常が、ずっと続きますように

らしくないとは思いつつ、俺は沈みかけの夕陽を見てそう祈った。



end.
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あとがき

タイトルセンスが欲しい、そう常々思います…。
今回は、付き合って暫く経っても二人は名字呼びなのかなぁとか思いながらもそのままを貫きました。
顔真っ赤にしながら言い合いする二人がすごく楽しくて、でもちょっと恥ずかしかったです…。

リクエストに答えることができているでしょうか?それが少し不安ですが、気に入ってくださると嬉しいです。
この度は一周年記念企画に参加していただきありがとうございました!
これからもサイト共々よろしくお願いします。

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