ごっつぁ煮

□軋みゆくこの世界で(東仙と市丸)
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私は目は見えないが

あの時の彼は、恐らく何時もの様に笑ってなどはいなかっただろう 
























「……ホンマにええのん?」




「…何がだ」




酷く風が穏やかな時だった 

ここでは初めてと言っても違わないだろう穏やかな風が、この虚圏に吹いていた 

こんなに穏やかな風ならば空はさぞや綺麗な雲が浮き、その雲の切れ間にはさぞや美しい星が光を放っているのだろう。ひと昔前の私ならきっと、あの障子を開け放ちかつての副官に声をかけるのだろう 


星が綺麗だ、と 



そう思ったその時、声をかけられた
知らず浮かんだ過去の言葉を黙殺し辺りに神経を集中させる 


案の定そこには知った霊圧の持ち主が立っていて私に声をかけてきたのだ


本当にいいのか、というのはどういう意味だろうか
彼にしては抑揚の無い声音であったのが少し気掛かりだった 


私はさっきの思考を読まれまいと返事を返すが市丸はさして気にも止めてない様で問いかけには答えずに近づいてくる 



「分かってるくせに」

「分からないから聞いている」

「ウソやー。そんなん言うてもボク分かるんや」 

「だから何がだ」


















「東仙はん、いつやったん?」







近い、そう認識した時にはもう既に市丸は私の左隣にいて、まるで核心を突いたかのような言葉を投げ掛けてきた 



“やった”とは、大体察しがつく言い方をするなと私は胸中で舌打ちをした 

自然と眉間に皺が寄る



「……私が何をしたと言うんだ」

「知っとるんやボクは。東仙はんちょっと前からおかしかったやんか」


知っとるんや、と何時もの飄々とした声ではなく何か切羽詰まった様な声で市丸は続ける 

いつの間にか、私の腕を掴んで 




「知っとる。ボクかてそないアホやない、ここおったらどないなるかくらい分かっとる」

「………」

「ボクかて…もう……」



腕に縋る市丸の手、そして私よりも高い位置から発せられる声が震えている


分からない


私が“そうなった”からといって、一体お前に何の不都合があるというのだろうか


いや、本当は分かっている


言葉を取り繕ってみても本当は知っている 
私は彼を幼い頃から知っているし長い年月を共に過ごしてきた仲


もう100年以上になる付き合いだ


元々飄々としているが人一倍人の心に敏感な彼のことだ
幼かった頃から私を兄の様に慕ってくれていた市丸は、敏感に私の“それ”を嗅ぎつけたのだろう 


それを思うと心が痛む 





「いいんだ、市丸…私が決めたことだ」

「……やっぱりそうやったんや」

「お前…はめたな……」

「ちゃう、ホンマにそう思ったんや。だからさっきのは確認や、はめたんとちゃう」

「……大人をからかうんじゃない」



自然と彼の口調が幼くなってきている 
彼はいつでも仮面を被り自分を偽りたがる 

その仮面が今私といることで崩れていくということは、それだけ信頼されているということかと思うと少し嬉しい、そんな気がする 
少し高い位置にある市丸の頭に手を乗せ、ぽんぽんと叩いてやった


「なんよ、ボクかてもう大人や」

「私からすれば、まだまだ子供だよ。背丈ばかりでかくなって…」



どうしたことか、私まで自然と口調が崩れていく 


市丸は私の手を払おうとはせず寧ろ子が母にねだる様に頭を擦り寄せてくる 


やはり私からすれば、彼はまだまだ子供だ 







「……東仙はんは…」

「うん…?」

「東仙はんはええんよ。力使わんでも。ボクが頑張るさかい」

「……どうだろうね」

「あかん。ボクが頑張るさかい東仙はんはおとなしゅうしとって」

「………」




とす、と肩口に感じる重み 

ふわりと頬を擽る彼の髪 



「あんさん見とったら…危なかっかしゅうてかなわん……」 

「……市丸…」

「なんや大変なことなりそうや…危なかっかしいねん」

「では、私が大変なことになったら助けて貰おうかな」

「うわ、ひど…」



クスリと聞こえる笑い声 
しかしそれとは裏腹にその存在は酷く脆いものに感じる 


暫くして彼は私から離れ、さっきの声音とは違う何時もの明るい子供の様な声で言った 


「ええわ、ボクが何とかしたらええんやから」









私は目は見えないが 


あの時の彼は、恐らく何時もの様に笑ってなどはいなかっただろう


顔も、声も、霊圧も全て 


きっと笑ってなどはいなかっただろう







     世界
くこの世界




君は――――  



 













最近世間では市丸旋風が吹き荒れてるらしいので書いてみました 市丸です(^-^) 


偽物とか言っちゃいやん 
/(^p^)\ 

時間軸は現世突入ちょっと前
恐らく決戦前夜


ギンは要をお兄さん的存在と思ってるといい 

要もでっかい弟的な感じでみてるといい 



因みに作中でちょくちょく出てきた“力”とか“やった”とかはアレです、虚化 


虚化はどうしたらできるのとか全く分からんのでうえきばちは改造されたのだと勝手に解釈してます   


ギンもなにかしら…みたいな
(´∀`;)
 

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