フォーリンガール

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いつの間にか両腕を壁に押し付けられている。

不用意に体を近づけられ、私は思いっきり顔を背かせた。




「・・・いいことを、教えてあげましょうか」

「・・・っるさいっ!!」



ぐっ、と目を瞑って、そいつの声も聞かないようにして。

私は無駄だとわかっていながらも尚抵抗を続けた。

しかし、その時だ。

ふわり、と室内に小さく風が吹く。


それが不思議で、私は無意識のうちに瞼を開けてしまった。

が、




「・・・っえ、」

「これ、ただの遊びですー」




視界に入った藍色と、聞こえてきた声に、私はばっと顔をあげた。

そこには、間違いなくあいつがいて。

さっきの男の姿はなくって。




「・・・・・・ふ、らん・・・?」

「はいー」




そこにいたのは、フランだった。

・・・な、何で・・・っ?


突然の怪奇現象に、私の頭は混乱するばかりで。

だけど、物凄い安心感が一気に押し寄せてきて。

ずる、と壁に押し付けられていた体が傾いた。



「っと、」



私の腕を掴んでいたフランの手が離れて、崩れる体を支える。

・・・やばい、腰抜けた・・・。



「・・・な、何で・・・あんたが・・・」

「遊びにきたんですよー」

「あっ、遊びっ・・・って・・・・っ!!」



ゆっくりと床に体を降ろされる。

フランは同じ目線で片膝をつくと、私の目元を拭った。



「まさか泣かれるとは思ってませんでしたけどー」

「・・・っ有り得ない・・・・」



遊びって、私本当に怖かったのに・・・!!

まじむかつくこのカエル・・・!!


そうは思いつつも、あの男の正体がカエルでよかったと心底思ってる私がいた。

目の前にこいつがいること、・・・つまりこの世界にフランがいることは、あまりにも非現実的なのに。

安心感でいっぱいで、今はそんな大きな問題にすら気付けなかった。


と、ふいにカエルが両手を広げてくる。




「・・・・・なに、」

「どうぞー」

「だから、何が」

「こういう時ってー、「きゃー怖かったー」って言って抱きついてく、げろっ!!」



ひゅんっ!!

と容赦なくカエルの脳天目がけて手を振りおろした。

何日ぶりかのこの感触。

実にすっきりしますな。




「ほんっとありえないっ!!」

「ってぇ・・・そんなに怒らなくてもー・・・」

「何で普通に来ないのっ!!てゆーかそもそも何であんたここにいんのっ!!」

「まぁまぁ、それはまた後々話すとしてー」




でもやっぱりカエルへの怒りは大きい。

人を何だと思ってやがんだこのやろう。


そう思った、その時だ。

ふわり、とカエルの腕が伸びてきて、私の肩に絡みついた。

そのまま優しく引き寄せられる。




「すいません、悪ふざけがすぎましたね」

「・・・・・・な、ん・・・」

「でも、香奈さんに会いたくてきたんです」




どき、

と鼓動が速くなるのを感じずにはいられなかった。

またからかってるのか。

それとも、・・・本心、なのか。

もちろん、それはフラン自身にしかわからないことで。


だけど、認めたくないのに。

そんな言葉だけで、カエルに対する怒りが一気に吹き飛んだ。

・・・単純な上に何ときめいてんだよ、私。




「・・・・・・・あほ、へんたい」

「否定はしませんー」

「・・・・・・こわ、かったし、」

「ごめんなさい」

「・・・・フランで、・・・良かった・・・」




だけど、今はこの安心感に従順になろうと思った。

そう、これは安心感からであって。

私の意志じゃなくって。


別に、抱きしめ返してるのに深い意味なんてないんだから。




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