鮫誕2011

□21.
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だから私にどうしろっていうんだ。

と、何故か開き直りつつも眉を寄せた。


とりあえずあまりウロウロして誰かに見つかるのも嫌だし、適当な空き部屋にこもっている。

だけどいつまでもこうしているわけにはいかない。

何があろうとここにいるのもどうせあとちょっと。




「・・・よし、」




私は腹を決めて部屋に戻ることにした。

と、その時だ。


ウィィン・・・と、部屋の扉が勝手に開いた。

否、勝手、ではない。


扉が開いた先には、予想通りと言うか何と言うか、スクさんがいた。




「・・・あ、・・・」

「あ、じゃねぇだろぉ!!」

「・・・こんなに早く見つかるとは・・・」




やれやれ、とわざとらしくため息をつきながら仕方なしにスクさんのところへ歩み寄る。

よし、ここまでは順調。

私は何も知らないし、聞かされてない。

スクさんとはただちょっと縁があったってだけの関係で・・・あと少しでこのアジトともお別れで・・・・。




「あれでしょ、ちゃんと見張ってないと沢田さんに怒られるってやつでしょ?」

「はっ、別にあんなガキ怖かねぇがなぁ!!」

「ふーん、まぁどうでもいいけど・・・さっ戻ろうかー!!」

「う"ぉい、ちょっと待てぇ」




いつも通り、と自分に言い聞かせながら部屋を出ようとした時だ。

ふいにスクさんに腕を掴まれた。

かくんっ、と思わずよろめくが何とか立て直して・・・。




「な、何・・・?」

「お前・・・沢田に何か言われたろぉ?」

「は?いやいや、何かって、別に何も・・・」

「う"ぉ"ぉいっ!!だったら俺の目を見て話せぇっ!!」

「っ・・・・」




スクさんがいきなり大声を上げるものだから思わずびっくりしてしまった。

まぁこの人が大声なのはいつものことなんだけど。

何て言うか、怒鳴られた気がして。


恐る恐る見上げれば、その声色通りスクさんは怖い顔をしていて。

だけど、言えるわけがない。

沢田さんが私に話した内容は、「絶対言うな」とスクさんが念押ししていたことみたいだし。

それに、私がその事実を知っているとなれば、それこそ話がややこしくなりそうで。

だから何も聞いていない、知らないフリをしなければと思った。




「ね、腕痛いんだけど」

「俺の質問に答えろぉ」

「・・・だから、別に何も、」




ギリ、と私の腕を掴むスクさんの手の力が強くなった。

ほんとに痛い、・・・てゆうか、

・・・怖い。


そんなに、私に知られたくなかったの・・・?

下手に私が記憶を思い出して、厄介者がまたここに戻ってきたら面倒だから・・・?



「う"ぉい、何とか言え」

「・・・・・言われた、全部、1年前のこと、沢田さんから」

「・・・・・・」

「・・・けど、何にも覚えてないから、」



安心してよ。

幸か不幸か、私の記憶の中にスクさん達はいない。

だから、ここに戻ってくる理由もない。

予定通り、あと少しここにいればいいだけ。




「・・・・・そうかぁ・・・」

「・・・・・・」

「・・・1つだけ、言わせてくれぇ」

「なに?」




私の腕を掴んでいたスクさんの手はゆっくりと離れた。

何か、さっきまでと雰囲気が違う。




「澪の人生をめちゃくちゃにしといて許されるとは思ってねぇ・・・・だが、」

「・・・うん・・・?」

「・・・すまなかったなぁ」

「・・・・え、・・・」



謝られた。

・・・・え、何で・・・?


と、スクさんの謝罪の理由が分からないまま疑問ばかりが連なる。

そんな私を余所に、ふとスクさんの右手が私の頬に伸ばされた。

思わず全身が変に緊張して動けなくなる。


何で、そんな悲しそうな目をしているの。

何で、こんな優しい手つきなの。




「思い出せ、なんて言わねぇ、・・・言える義理もねぇが・・・」

「・・・・・・」

「俺は、澪が生きていてくれただけで十分だぁ」




頬に伸ばされた手はするり、と私の背後に回り込み。

そのままゆっくりと抱き寄せられた。


普通なら拒絶してもいいはずの状況。

なのに、私はそうしなくって。

不思議とスクさんの腕の中が居心地がよくって、温かくって、懐かしくって。


だからこそ、悲しくなった。



(・・・なんで、なんで、)
(こんな気持ちになるの。)




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