鮫誕2011
□15.5
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──1年前、3月12日。
『・・・もう3月だよ?』
『そうだなぁ・・・』
『ってことは春だよ?』
『日本はそうらしいなぁ』
『何でこんなに寒いのーっ!!』
雪が降るほどではないにしろ、その日は確かに寒かった。
澪はコートにマフラーにとしっかり着こんでいる。
せっかく春物買ったのにぃ、とか何とか言ってる姿を見ると柄にもなく微笑ましいとか思っちまった。
『スクアーロは寒くないの?』
『そうでもねぇなぁ』
『うっそー!結構薄着じゃないっ!?』
『そうかぁ?』
『うんうんっ、見てるこっちが寒いっ』
『だったらそのマフラー貸せぇ』
『えーやだよー、私が寒いじゃんー』
『う"ぉい、結局自分優先かよぉ』
『当たり前っ!・・・・あ、でも、』
『・・・?』
『左手だったら貸してあげてもいいよー』
なんちゃってー、と言いながら笑う澪。
不覚にも可愛いとか思って、俺は迷わず澪の左手をしっかりと握った。
こういうことができんのも寒いうちだけなのになぁ。
と思いつつ、そんな寒さの良い所を澪に説明できるわけもなかった。
その時だ。
『・・・・・!!』
『・・・?スクアーロ、どうし・・・』
『伏せろぉっ!!』
ズガンッ!!ズガンッ!!
突然強い殺気を感じ、俺は澪を守る様にして地面に伏せた。
案の定、直後に銃声が響く。
ボンゴレほど大きなマフィアの暗殺部隊に所属してんだ。
そりゃ狙われることだってあるだろう。
普段なら返り内にしてやるところだぁ。
・・・だが、
『澪、大丈夫かぁっ!?』
『う、うんっ・・・でも、今の・・・』
今日は澪もいる。
しかも、愛刀すら持ち合わせていない。
完全に丸腰状態だ。
そして、俺を狙ったであろう敵は惜しげもなくその正体を現した。
『う"ぉ"ぉい、どこの低俗ファミリーかは知らねぇが、随分なご挨拶だなぁ』
『・・・ふん、ボンゴレの暗殺部隊幹部であろうと、身1つに女連れとあっちゃ敵じゃない』
『言ってくれるじゃねぇかぁ、カスがぁ』
去勢を張ってはみるものの、内心焦っていた。
敵の言う通りに違いない。
おまけに、そいつはご丁寧にも銃口をこちらに向けたままだ。
俺1人ならまだしも、迂闊に動いては澪が危ない。
しかし、その時だった。
『スクアーロっ!!』
ドンッ!!
『なっ・・・!?』
突然、後から澪に強く突き飛ばされた。
直後だ、
ズガンッ!!
と、1発の銃声が、別の場所から響いた。
気付けば先ほどまでそこにいたはずの敵の姿は消えていて。
俺が話していたのは幻覚の姿で、本体は別の場所から俺を狙っていたらしい。
・・・・が、俺は痛みすら感じなかった。
その代わりに、だろうか。
視界に入ってきたのは地に伏せた澪の姿と、その周りに広がっていく赤。
こんなにも、他人の血を怖いと思ったのは初めてだった。