nouvelle

□雪待夜
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ニュースが伝える
スリップによる玉突き事故。
電車の遅れ。
空路閉鎖。
縮こまって足早に歩く人々。
稀に見る大寒波。
今冬一の低い気温。

「記録的寒波、だってねィ。」
炬燵、は残念なことに大広間にしかない。
むさ苦しい隊士共が取り合って窮々のそれに飛び込む気力もないこの寒い日。
沖田は土方の部屋にきて、石油ストーブの前を独占していた。
「何でテメェは俺の部屋に来る」
「ストーブ使いすぎだテメェって、小言言うの土方さんでしょ」
毎度毎度、電気の使いすぎだーって。
それに電気ストーブはこっちよりもなんかヒリヒリするんでぃ。
「それはお前がまん前座るせいで部屋があったまらないからだろうが。現に俺は今、物凄っっご寒ぃんだが??」
「こっちに来りゃあいいでしょう。あったまりやすぜ、多分。」
「多分てなんだ。そして絶対暖まらねェだろ。それ、どうせお前が温風の出る所は独占してるんだろうが」
ふがふが、と謎の言語。
沖田はどこから持ってきたのか篭いっぱいの蜜柑、そのうちの一つをほおばっていた。
そんなこと当たり前でィ。
沖田が言いたいことというのは、そんな所だろう。

第一、そんなストーブの前に噛付かなきゃならんのも自業自得だろうが、と土方。
半刻ほど前、風呂上りで雫の滴る髪も拭かないままに浴衣一枚で土方の部屋に飛び込んできた沖田。
馬鹿だろうと言う土方の言うことも聞かず、入ってくるなりストーブのど真ん前に座り込む沖田。
それにタオルを寄越してやって、土方は机に向かい続ける。
羽織るモンは勝手に出せといって。
この時期には(この時期でなくても夏にはこれが扇風機に代わってと)良くあることで、いつもならこのまま土方は黙っているのだが、
「まあいい、が、あと20センチは下がりやがれ」
流石にこの寒さ、我慢もしていられないと土方。
このストーブの独占者が来る前より随分と室温が下がった。
足先などはすっかり冷たくなってしまっている。
下がれ、などというのは随分な譲歩で実際はどけ、もしくは帰れとでも言いたいところなのである。
「いやでィ」
ところがあっさりそう言ってのけた沖田。
これには然もの土方も堪忍袋の緒が切れたというもので、いや或はこの返事を想定した上でその先を思策してか、沖田に飛び掛った。
「いきなりなんでィ」
沖田は驚いたのかそうでないのか、ポーカーフェイスのままに言った。

土方が、沖田を背中側から抱きすくめた姿勢なのでお互い表情は見えない。
「こちとら、寒ィってんだろうが」
「でも俺は動きやせんぜィ?」
どこか挑発的な口調で沖田は言った。
寒いのは御免でィ、と上体を揺らして土方を振りほどこうとしているらしい。
「ああ、お前ェが寒い思いするようなかわいそうなことはしねェよ。」
土方は目の前の白い耳の裏を吸い、舌を這わせた。
沖田は小さな声を漏らしておとなしくなる。
「犯らせろ」
囁くと沖田は肩を揺らした。
「ヤッてお互い暖まろうって?これだからオッサンは考えることが分かりやすくて困らァ」
「煩ェ、お前だって期待してんだろうが。」
なぁ?と土方は沖田の浴衣の袷に手を入れる。
「さァ?」
そういった沖田の耳が赤いのはストーブに当たりすぎてのぼせたのか。

「そういや土方さん、ハナっから布団敷いてたもんなァ」
「そういう目的でとか思ってんじゃねェぞ?今何時だと思ってる。」

「あーあ、明日は・・・」
「テメェは夜勤だろうが。」
じゃあいいや、などと色気のない沖田を土方は組み敷いた。

「寒い」
「これから嫌でも熱くしてやる」
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