gift&present2


□わざとにさせて。
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キスをした。自分から。


わざとにさせて。





ダッシュで逃げようと思ったら、先輩に先回りされて捕まった。そしてずるずると部室棟の裏(つまりは人がいない所)に連れて行かれて。慌てる間もなく抱きしめられた。オレがしたのは、水飲み場に隠れてのキスで。でも先輩のは違う。しっかりとオレを腕の中に閉じこめて逃がさないようにして、煽るように口づける。絶対わざとだ。こっちは必死で決死の覚悟でキスしたのに、先輩はその上をいっている。ずるい。
学校で、二人きりじゃない場所でこういう事をするのは初めてだったのに。笹川先輩はきらきらぴかぴかの目を潤ませて、それを少し細めてキスをする。どうやらオレのキス待ち顔を見ているらしい。から、ずるい。オレは見てられなくて目をぎゅっとつぶっているから。だって、恥ずかしいことしてるのに。見てられる訳がない。

「山本、口開けろ」
「せんぱい……部活……」
「煽ったのはお前だ」

ちょ、ちょっと待って。煽ってなんて。

「キスだけで止めてやるんだから大人しくしろ。帰ったら抱く」
「――――っ」
「愛してる」

先輩は、どうして。そんなにストレートに言葉をくれるの。オレはしどろもどろなのに、それを飛び越えて、彼はこっちに侵入してくる。侵略してくる。領域が、侵される。白銀がオレを照らし出す。そんな所に隠れてないで、こっちに来いと。それは、お日様が当たる場所。

「ん……先輩、顔、えろい」
「エロい事してるんだから当然だろう」

歯列を割って、舌を舐めしゃぶられる頃にはオレの膝はもうがくがくで、縋っているだけで精一杯なのに。彼は平気で立っている。自分より大きなオレを支えて。それが、プライドを刺すんだけど、それすら愛しくなるから始末に負えない。
潤んだ白銀の目を見るのが好きだ。だからキスは先輩からして貰いたい。ちょっと背伸びして、オレの首に腕を回してくる彼が好きだ。だから、オレは彼より大きくても良かったと思える。運動部なのに白い肌が好きだ。オレは焼けてるから、対比になって良いと思える。全部全部、先輩のおかげ。
それでも、彼を好きになってから、彼が好きになってから。好きだと自覚してから、こういう行為が恥ずかしくて。二人きりで、部屋の中で。秘めるように手を繋ぐことからやり直した。オレ達は。だからだろう、煽った、というのは。こっちから隠れてキスを、学校の校庭で、するなんて。誘ってるようなモンだ。でも、実際は。先輩が顔を洗いに水飲み場に来て、オレも顔を洗っていて、ちょうど死角になる場所だったから。キスをして。恥ずかしくて脱兎のごとく部活に戻ろうと思ったんだけど。あぁ、後で監督にどやされる。


(でも、気持ちいい、)


先輩はキスが上手いと思う。だってオレの足もう完全に役に立ってない。悔しい。でも、幸せだ。あー、オレ反応しそう。どうしよ。

「感じたか?」
「……黙秘します」
「感じたんだな」

帰るか? そう耳元で問われて、素直に頷けない自分が歯がゆい。でも、それでも。待っててくれるこの人だから、オレも、時間をかけて頷ける。これじゃ、もう練習どころじゃないよ。先輩の馬鹿。意地悪。

「時に山本」
「はい?」
「担いで帰っていいのか?」
「……回復するまで、座ってます」
「俺は早く帰りたいのだが」
「つか、無理でしょ。担ぐとか」
「…………」
「うわあああ!?」

視界が反転して、軽々オレを持ち上げている先輩の顔を見上げる。あれ、これ、オレ横抱きにされてる? いわゆるお姫様抱っこってやつ? ちょ、ま、恥ずかしい!
てっきり俵みたいに担がれるとばかり。

「……軽い」
「失礼ですね、ちゃんと筋トレしてますよ」
「お前は熱中症で帰宅。そう言うことで良いだろう」

よくねえ! というツッコミはできなかった。だって、しれっと言う先輩の顔が、熱っぽくて。あぁ、焦れてるのはオレだけじゃないんだ。先輩も、なんだ。


(野球部で噂になりそ、)


自分よりでかい相手を横抱きにして運べる力持ちって。
野球も、ボクシングも、今は横に置いておいて。(大事だけどね)
この人がオレのだと、少しは噂になるだろうか。狙ってたとか、ちょっと言えない。


(やべ、顔にやける、)


――――あぁ、楽しみ。






I pray you follow happy days.
20120801 R
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