gift&present2


□見えないのがもったいない。
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右目の上の方を、切った。
バッターの手をすっぽ抜けたバットが、ちょうど顔の横をすっ飛んでいったからで。

「見えにくいー……」
「極限気を付けろ」

久々の眼帯を付けたオレは、心配してくれた先輩に送ってもらうことになりました。


見えないのがもったいない。





視界が狭い。これを毎日続けているクロームってすごいと思う。まっすぐ歩いてるつもりで、その実曲がって歩いてたりするから油断できないのだ。危なっかしいと、先輩に手を繋がれた時は嬉しかった。
晴コテで治そうにも、人目があるから部室ではできなかったし。オレの家で治して貰うことになった。先輩曰く、心配でロードワークにも行けないとのことだったんで。昨日の今日で傷が無くなっていることに騒がれるかもしれないから、キズバンだけはすることにした。とりあえず、今は家に帰ることだけ考えなくちゃ。


(先輩と、手ぇ繋ぐの、)


嬉しい。けど、油断してると電柱に向かっていってしまうオレが危ない。
まだこの時間は車も通るから、道の端を歩いてないと危ないのに。オレはどうしても真ん中へと行ってしまうらしくて。その度に先輩が引き戻してくれる。周囲も、眼帯をしているオレを見れば世話を焼かれていると勝手に思ってくれるから。今日は堂々と手を繋いでいられる。それが、不謹慎にも嬉しい。

「こうして帰るの、いつぶりだ?」
「……えーと、いつだか大雨の日に一緒に帰った時以来?」
「そうか」

なんだろう? 感慨深げに呟く恋人様の背中を見つめる。
そこに答えが書いてある訳じゃ、ないけどね。でも、頼もしい背中。左目だけで、見つめてみる。この人の背中、って、こんなに広かったっけ。

「山本、車が来る」
「あ、はい」

道の端に誘導されて、庇うように先輩が車道側に立つ。まるで、女の子にするみたいに。オレは、男で。この人よりガタイもよくて。背だって高いのに。それでも、宝物のようにしてくれるのが。好きで、仕方ない。
ちょっとくらい、乱暴にしても壊れたりしないのに。

「行きましたね」
「馬鹿者っ!」
「え」

ものすごい強い力で引っ張られて、その目の前をガーっと大型車が通っていった。あれ、まだ車いたんだ。鼻先すれすれを通りに抜けていく車に、ちょっと冷や汗。危なかった、よな。オレ。おそるおそる後ろを振り返ると、先輩が仁王様のように目を尖らせていた。

「す、すんませ」
「怪我してないな!?」
「あ、はい」

びっくりした、だけだから。大丈夫だと告げると先輩が盛大に息をついた。それから、

「わ」

ぎゅっと抱きしめられて、ここ公道、と慌ててみたんだけど。それでも腕は離れていかなくて。きつくきつく抱きしめられていたら、鞄が肩からずり落ちた。


(先輩、に、心配させちゃった……)


「通れるようになったら俺が連れて行ってやるから、頼むから」

危ない真似をしてくれるな。と、告げられて。頭が下がる。この人は過保護で、でも、その実必要だからこその世話焼きなんだと、思い知る。
オレって、まだまだだなと思いつつ。そっと背を抱きしめてぽんぽんと撫でさすった。車に驚きはしたけど、肝を潰したのは彼の方だ。

「ごめんなさい、驚かせて」
「行くぞ」

今度は、先輩の先導で。落とした鞄を拾い上げてついて行く。
あぁ、今、先輩ってどんな顔してるんだろう。見てみたいな。そう、思った。けど、片目だけじゃどうにも見えないから、それは我慢するしかない。視界が悪いのって、どうにも困るな。


(こっち、向いて)


人通りがとぎれた住宅街、もうすぐオレの家。そんな地点で、念じてみると、彼が本当に振り返った。――――すごい、テレパシー。

「泊まっていきません?」
「お前の怪我を治したら、荷物とってくる」

早く、先輩の顔がきちんと見えるようになりたいな。今だって、彼がどんな顔をしているのか気になって仕方ないから。
夕日に染まって赤くなった顔、オレにも、よく見せてね。先輩。





I pray you follow happy days.
20120328 R
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