gift&present2


□気付いて、
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人当たりが良くて人気者で誰からの好意も無下にしない。
そんなオレという人格が一人歩きしているのは、知っている。


(どうでもいいけど、ね)


でも、オレだって、人間なわけで。


気付いて、





誰にでも優しくすることはできる。分け隔て無いというのは、つまりは区別していないことに繋がるからだ。誰も特別じゃなかった。先輩が現れるまでは。だから誰にでも優しくできたしそれは苦痛ではなかった。


(先輩の、馬鹿)


――――限界。が、来たと思った。先輩が来てから、現れてから、オレの中にリミッターがついた。ここで限界、もう無理、というシグナルが鳴るようになった。それは正しく、オレに限界を教えてくれる。本当に、もうダメだと。それは悪いもののように思えていたけれど、そうでもない。自分の許容範囲を知るのは、無駄なことではなかった。むしろ、必要なことだった。
要は、ケンカしたのだ。先輩と。内容なんて無い、ただ、青葉さんと仲良くしているのを見つけてしまって。声を掛けられずにいたら、何かをやり遂げたらしくて抱き合って喜んでいて。頭に血が上った。


(だから、嫌なんだ)


オレは青葉さんが苦手。というか、先輩に近づく者は誰でも苦手だと思う。あの人が誰かと仲良くしているのを見るのも辛い。それくらい惚れ抜いている訳で、それくらい余裕がないわけでもあって。
こんなこと、誰にも言えない。オレの恋人様は、それこそ誰にでも優しくて(妹には別格で特別優しくて)、分け隔て無い人だから。こんなオレとは違う。本当に、心の底からそうしている人だから。こんなことは、言えない。当たり前に、当たり前のことが出来る人なんだ、あの人は。
シモンのみんなは楽しい連中だ。悪い奴じゃない。こっちが勝手に妬いてるだけで、それ以上は何もない。彼らの輪の中に入ってみたこともあるし、入ってこられたこともある。どちらも、悪い気はしなかった。むしろ、楽しかった。でも、それでも。あの人の事となると、違うのだ。何がって、もう、すべてが。

「せんぱいの、馬鹿」

本当に、内容のないケンカだ。情けなくて涙が出る。自分の部屋に帰り着いた頃には、視界がぼんやりしていたからオレは帰り道涙目だったのだろう。
親父には、見られなくて済んだけど。


(どうしよう)


今日は本当は、先輩の家に泊まる予定だったんだけど。それももうできない。イレギュラーにやってきた青葉さんの相手があるだろうし、何より言い合いしてしまった。その捨て台詞が、先輩の馬鹿、という何とも子供じみたものだから、何とも情けなくて此方から折れられない。いつもなら、オレが耐えきれなくなって先輩にメール出すなり電話するなりするんだけど。そうしたらあの人は飛んできてくれて、オレより9センチも低いけど、でもオレよりずっとあったかい腕の中に抱きしめてくれるのに。それができない。怒ったこっちが、折れないから。
あの人は、既に折れてくれているのだ。いつだってそうだ。少し時間が経つと、冷静じゃなかった、すまない、そう言って、素直に折れてくれる人だ。でもこっちが意地を張っていると、その素直な謝罪も受け入れられずに放置されることになる。


(馬鹿は、オレだ)


何を無い意地を張っている。携帯はもう何度も震えていて、その着信はすべて先輩からだった。気の長い、でも短い彼が、辛抱強く携帯端末と向き合ってオレを捜してくれている。折れるなら、今だろう。
きっと、もう、青葉さんもいないから。居ても、オレに構ってくれるから。
大丈夫、だから。

「――――はい」
「山本、お前何処にいる」

少し声が弾んでる。走っていたのかな、オレを捜してくれていたのかな。
そう思うと、背中を押されたような気がした。謝るなら、今を逃したらチャンスが巡ってこないぞと。そう思ったら、ごめんなさいがすんなり言えた。

「今から、もう一回先輩の家に行きますから、だから、待っててくれますか」
「……わかった、待ってる。さっきはすまなかった、直接言うからな、絶対だぞ」

あぁ、だから、この人は。オレみたいなただの意地っ張りじゃなくて。本当に優しい人だから。気付いてくれる、心の内を。
好きだなあと、ほわりとした心が浮いてきた。さっきまでの、とげとげした感情とは比べ物にならない優しいものが。オレだけのお日様が、待っていてくれる。家に行く約束をして、話を畳もうとしたら呼び止められた。

「はい?」
「指切りげんまんだ! 嘘ついたら針千本飲ますぞ?」
「ははっ、はーい」

今度こそ、心の底から笑いがこみ上げてきて。堪っていた涙が落ちた。切った通話の先には届かないけれど、もう、感情がだだ漏れで。

「先輩、好き」

うん、これは直接言いに行こう。
本人に伝わるように顔を見て言うことだと、思うから。
さあ、お泊まりのやり直しだ。





I pray you follow happy days.
20120323 R
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