gift&present2
□無自覚。
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町に出るとよく声を掛けられる。それは女性子供問わず。牧師の姿をしているからだろう、と、思っているのだが。
「もう行きましょう、ナックルさん」
一人取り残される雨月が気になって、最近は振り切るようになった。
無自覚。
「すまなかったな、待たせて」
「いえ」
雨月が小さく首を振る。ジョットが買い与えている洋服に身を包んだ彼は、今日は俺の護衛だった。複雑な所だが、俺より雨月の方が強い。
(強いと、思っては居ないだろうが)
それでも、雨月の方が強い事にかわりはない。頭の出来も、雨月の方がずっと良いだろう。そう考えると複雑というか、何というか。
ともかく、俺が任務に出る時は決まって彼が護衛についてくれた。それは嬉しいような、悲しいような。彼の腰にさがっている剣がなければ、素直に喜べたかも知れない。
「後は帰るだけだ、そう気を張るな」
「……はい」
「牧師様」
「はい?」
あぁ、またか。声を掛けられて振り向く途中、雨月の表情が曇ったのがわかった。声を掛けてきたのは若い女性で、綺麗なドレスに身を包んでいる。結い上げた髪を見るに、これから夜会にでも行くのだろう。俺達は帰りたいのだが。明らかに、隣の雨月のオーラがかげっているのわかる。
女性は友人の結婚式の執りおこないを頼みたいと申し出てきた。それは確かに牧師の仕事だが、俺の所属する教会はこの地区の担当ではない。よって受けられない。教会に直接頼んだ方が早いと説明してみるも、なぜだか女性が引いてくれない。参った。とーーーー、
「もう帰りましょう、日が落ちます」
――――雨月の、上流階級が使うような綺麗なイタリア語が会話を遮ってくれた。
小柄な少年に話の腰を折られてめんっくらったのだろうか、女性が黙った隙に一礼してその場を去ることに成功した。
しかし、隣を歩く少年の不機嫌のオーラがさっきから、厳しい。
「雨月」
「……」
「雨月、おい」
「……なんですか」
こうもあからさまにされると、うぬぼれたくもなる。良いだろうか、うぬぼれて。彼に、思われていると考えて良いだろうか。わかりやすくて、かわいいのだが。
――――彼の腕を掴んで、物陰に引きずり込む。こうしてみると、軽くて不安になるほど、彼が軽い。もっと食事を取らせなければと思うくらいだ。しかしまぁ、今はそれが主題ではない。雨月の嫉妬を和らげなければ。そう思って、聖衣に包むようにすっぽりと抱きしめる。本当にすっぽりと納まってしまうから、不思議だ。あぁ、でも。少し背がまた伸びた気がする。
「な、ナックルさん?」
「そうとげとげするな。可愛いだけだぞ」
「な……っ」
腕の中の体温が、二度くらい上昇した気がした。
(ばれてないとでも、思ったのか、)
いくら俺でもわかる。それくらいあからさまな嫉妬を向けられて、悪い気がしないどころか嬉しい。お前でも妬く事はあるんだなと耳元で囁くと、小振りな耳朶が赤くなった。暗がりでもわかりやすい反応にどうしてもやに下がる。その間も、腕の中の雨月は何事か言おうとしては口を閉ざすばかりで言葉になっていない。うう、とかうなった後に、背に腕が回ってきた。観念したか。それが懸命だ。
「……女性にモテるのですね、ナックルさんは」
「牧師服の影響だろう」
「違うと思います」
やれやれ、まだ臍は曲がったままか。それも、またかわいいのだが。
「ナックルさんだから、モテるんです」
夕闇に浮かび上がるように白い彼が、腕の中で呟いた。はて、俺だから? 何のことだろうか。わからないけれど、わからなくてもいいかもしれない。
(こいつでも妬くんだな)
そう言えば、部下以外にかかりきりなところなんて見せたことはなかったか。
何が違うのかわからないけれど、ここからアジトに戻るまでは呼び止められないようにしたいところだ。
「俺が好きなのはお前だからな」
「――――っ」
おお、見事な赤面だ。それを見ながら、口づけは軽く。
「本当ですか?」
「本当だ」
おずおずと抱き返されて、腕の中の少年を強く抱きしめる。少しでも、安心して貰うために。
「ナックルさん、苦しいです……」
「もう少し」
「……はい」
イタリアの町は寛容だ。こと、恋人同士のスキンシップには。
だから、もう少しだけここで。
I pray you follow happy days.
20120316 R
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