少年達の日々。


□トライアングラー
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これも三角関係と言うのだろうか。今度、リボーンに聞いてみようか。 オレが好きな奴はオレ以外の人間を見てる。たぶん好きなんだろうとわかる、恋してる奴特有の淡い色を含む視線で。けれど、そいつはその感情自体に気付いてないみたいだった。だから毎日毎日、ただただ見つめている。そしてオレは、そんな生徒を見つめている。
7つも年下の生徒は、学校が好きで、街が好きで、戦うことが好きで、強い奴が好きで。
オレの弟分に、たぶん惚れてる。




トライアングラー



中学校の応接室にしては豪華な応接セットに座ってみると、恭弥の執務机はやや高く見える。彼は執務机に浅く腰掛けて、窓の方を向いていた。
ここからだと、恭弥の顔がよく見えないのが不満だ。そよそよと、開け放した窓から流れ込む風がカーテンを揺らす。そうして、恭弥の白い肌に淡い影を作る。病的に白い肌をしたオレの生徒は、少し目を細めて窓の外を見下ろした。


「恭弥は右からの攻撃に若干反応が悪いな。たぶん、視野の問題なんだろうけど」
「……」
「効き目と見え方も違うんだろうな。…………て、聞いてるか?」
「…………僕、あなたとは話をするより戦いたいんだけれど」


恭弥はさっぱりこちらを向かない。何が気にくわないのか、と問うほどこのじゃじゃ馬とのつき合いが短いわけじゃない。ついでに言うと、そんなにわかりにくくもない。年の差のおかげか、オレにはなんとなくわかる。わかりたくなかったけど、わかっちまった。
ときどき宇宙人よりも不可思議に見えるけれどこいつはまだ15歳の少年なのだ。ある一定のルールに則れば、とてもとても、わかりやすい。子供なんだから。
でも。ツナ達からしてみればわかりにくいことこの上ないんだろうな、とも思う。
ほら、今だってこいつは窓の外を見てる。応接室のあの窓から見えるのは、グラウンドと、校門へ続く道。
そして、そこをこの時間帯、ツナ達は帰っていくことを、オレは知っている。
恭弥も、もちろん。


(慣れたけどさー……)


でも、こういう時痛感する。
恭弥の中にオレという存在がどれだけ認知されていないかを。
オレの声なんて右から左に聞き流して話した内容もどれだけ覚えてないかを。
オレがここにいて、恭弥を見ていることなんてどうでもいいんだろうな、とかを。
考えているとかなり凹む。家庭教師も生徒も集中力散漫なのだ。今日は授業は切り上げよう。立ち上がると、恭弥がようやくこちらを向いた。


「ツナ達帰るみてーだし、オレらも切り上げよーぜ。スモーキンボムと山本も一緒だし。オレ顔出してくるわ」
「……帰るの?」
「おう。恭弥も遅くならないうちに帰れよ」


恭弥の肩が少しだけ揺れた気がした。
でも、そこにつっこんでいられるほど、オレはまだ人間できてねぇんだ。リボーンに見られたら、鼻で笑われそうだ。


「僕は好きなときに帰るよ」
「…………気を付けてな」


恭弥の声がワントーン下がった気がした。顔を見るのが怖くて、顔を見られるのが怖くて振り返らずに戸を閉める。背中に恭弥の視線が刺さっていたのは、たぶん気のせいじゃない。



「ツーナー!」
「あ、ディーノさん!? いつ日本に来たんですか?」
「ちょっとな〜、野暮用野暮用」


ツナはオレに気付くと駆け寄ってきた。頭を撫でてやると、嬉しそうに笑う。可愛い笑顔を振りまいて、身を預けてくる姿には庇護欲さえ湧く。指輪争奪戦で疲れ切っているだろうに。だから、ツナの頭を撫でるのは結構好き。追いついてきた山本の頭を撫でるのも好きだな。


「恭弥の頭を撫でるのは命がけだけどな……」
「え? 何か言いました? ディーノさん」
「ん〜? いいや、なんでもねーよ」


へらへらと笑いながら校舎を一瞥する。ツナの頭と山本の頭に手を置いたまま。視線は応接室のあたりへ。そこから全身に刺さる視線を感じながら。
騒ぐスモーキンボムの怒鳴り声はスルー。
ツナと山本と一緒にはしゃいで、笑って、家路につく。
せめて良い家庭教師でいてやりたかったけどな。なんて思ってももう遅い。手に入れるかどうか悩めるだけの理性があるうちが華だ。
これも三角関係と言うのだろうか。今度、リボーンに聞いてみようか。


(笑うなら、笑え)



I pray you spend happy days.
080624 R 080626加筆修正
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