まふぃあ達の日々。4


□ケンカの後は。
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山本とケンカした。
些細なことがきっかけで、それに俺の頭に血が上ったのが敗因だ。


ケンカの後は。





山本が自室に引っ込んで、出てこなくなってしまって。訪れたのは虚無感だった。何でこうなった。そう問いかける俺がいる。俺が悪い。泣き出しそうな顔で、山本は黙っていたじゃないか。


(最低だ、)


謝りに行こう。そう決断するのは早かった。こんな虚無感、抱えて一人で居られない。恋人を抱きしめたい。そういう欲求の方が強かった。京子とはケンカしたことがない、いつも、たしなめられて、それで終わっていた。から、こんなのは知らない。こんな、ぽっかりと胸に穴が開いたような感覚は。

「山本」

ドアをノックして、みて、返事はない。試しにドアノブを回してみると開いていた。てっきり、鍵を掛けられたと思ったのに。

「入るぞ?」
「……え、え? ちょ、待って」

そう聞こえた瞬間、携帯が鳴った。何だ? 取り出してみると、受信ボックスに山本からのメールが。


(ごめんなさい、嫌わないで)


「ぎゃー!」
「…………お前、これ打ってたのか」

相変わらずムードもへったくれもなく半狂乱に叫ぶ顔が赤い。多分俺が来ないことを前提に、打っていたのだろうメールは。彼の泣き出しそうな声が聞こえてくるようで。ベッドの上で硬直している身体を抱きしめるのは反射にも近かった。
愛しい。愛しい。嫌うなんて、そんなこと、あるわけ無いのに。あるわけが。

「愛してる」
「…………何でアンタ来ちゃうんですか」
「すまん、早くお前のこと抱きしめたくなった」
「それ、理由になってない」
「すまなかった」

今度は本気の謝罪だ。それは伝わったらしく、彼は黙り込んで、それから、そっと背に腕を回してくれた。
少し顔をずらして、頬に口づける。幾度も、幾度も。柔らかな頬は引き締まっていて、それでも、そこに幾筋かの涙の後が見て取れたから。多分少し泣いたのだろう。俺のせいだ。

「……せんぱい、キスは」

口が良い。と、申告が来たのでようやく唇を合わせた。
なんでほっぺなの、と幼い口調で尋ねる彼に、こんな唄があったろうと言ってやる。それは、ケンカの後の仲直りに頬にキスをするという幼くも正しい、まさしく仲直りの仕方の唄。

「……恥ずかしい人ですね」

そうだろうか、俺は正しいと思うのだが。でも、やっぱり。キスは口が良いな。薄い唇を軽く食むと、ふるりと身体が震えた。

「……もう怒ってないか」
「そもそもアンタが怒ったんでしょ」

そうだった。


(こいつは気が長いからな、)


せっかちな俺には、彼くらい気長に待ってくれる恋人がちょうど良い。ぴたりと当てはまって、合わさるのは彼だけだ。
シャツの隙間から手を忍ばせると叱る目つきが飛んできたが無視をした。そこで止めていたら何も出来ない。

「……スるんですか? なら先輩の部屋に」
「此処が良い」
「え」

せいぜい、この部屋で俺のことを思い出して居ろ。このお前の部屋で。どんな風に抱かれたか思い出して。恥ずかしく眠れなくなってしまえ。そうしたら俺の部屋にもっと来るだろう。

「……ん」

山本が頬にキスをくれた。

「ケンカの後は、こうするんでしょ?」
「そうだな、そうだ」

それは、許し合ったというサイン。






I pray you follow happy days.
20120707 R
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