まふぃあ達の日々。4


□手慰み。
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山本が、京子から貰った手芸セットにはまった。

「……極限ちまちましている」
「そういうもんですから」

ビーズで作るブレスレット、それを恋人はすいすい作っていく。


手慰み。





「むかつくけど任務アンタとバディ組むようになったじゃないですか」

むかつくと言わなかったか今。こちらも見よう見まねでブレスレット制作中なので話半分だ。細いクリア糸を小さな穴に通していくという作業は単純だが、これがなかなかうまくいかない。滑ったり、通らなかったり、ビーズを落としたり。

「そしたらオレの任務って書類整理あんまりないから暇ができちゃって」
「む、うむ」
「せっかくだから、厄よけでも作ろうかと」
「厄よけ?」
「オニキスって、知りません?」

知ってる、名前くらいは。今山本が作っている黒いビーズ……ビーズじゃないのか。ちゃんとした石なのか。それだ。彼は今、黒いオニキスをすいすいと糸に通している。アレで、厄よけになるのか。そういえば、たまにブレスレットをしている奴を見かける。たいていは良い所のメーカーの腕時計を着けているものだが。


(それにしても、厄よけ、)


彼は何かを祓いたいのだろうか。家でも、アジトでも、そんな困った様子は見た限りないのだが。また俺に隠れて一人で何か抱え込んだか。

「……アンタの厄よけですからね」
「俺が付けるのか? っと」

あ、と思った瞬間にばらばらとビーズが散って穴に通していたものが机の上に広がった。極限しまった。

「あー、もう。……せんぱい、向いてませんね」
「大きなお世話だ」

こういうちまちましたことは苦手だ。本当に。だから料理も掃除もおおざっぱだ。山本の方が細かい所まで丁寧に料するし掃除も丁寧だ。こういう所で性格が出る。山本も細かいことには気を配らないタイプなのに。何となく悔しい。
そういう山本と言えば、オニキスで作ったブレスレットを完成させて俺の手を取っている。少し伸びる素材らしい糸は俺の手を通り抜けて手首に納まった。なんとなく、落ち着かない。こういうちゃらちゃらしたものは付けた試しがないのだが。

「落ちつきません?」
「……すまん」
「じゃ、こっちに付けましょうか」

恋人はそう言うと、俺の懐から携帯を取り出した。ストラップの何も着いてない簡素なそれ。それに、横にあったパーツを組み合わせて作り上げた簡易ストラップブレスレットを器用に装着させていく。

「これなら、邪魔にならないでしょ?」

お前、最初からこれを狙っていなかったか。にんまり笑顔と、用意されていたストラップ部分にそんな考えが思い浮かぶが、それも良いだろう。それでも、こいつが満足するなら。


(手慰みにしては、上手い物だな)


山本が作ったオニキスのブレスレット(現在携帯ストラップ)は黒々として、綺麗に輝いている。これで厄よけになるのか。何を思って、こんなことを始めたのだろう。京子からセットをもらったのは俺で、性に合わないと放り出していたら山本がやり出した。それだけだったのに。

「結構集中力使いますねー」
「……ギブアップだ」
「ははっ、先輩の分はオレが作りますから」

すまん、任せる。それだけ言うと、恋人は散らばったビーズを丁寧に集めて、ハンカチの上に集め始めた。

「それでさ、書類整理くらいアンタの手助けにならないかと思ったんだけどオレが知らないことばっかでやることなくて」
「……ん?」
「アンタが任務で怪我しないように、お守り。心配いらないと思うんですけどね」
「……」

彼の、思ったことは。そう言うことなんだろうか。こんなめんどくさいお守りを作ろうという程、心配されているなら、気分が良い。身体能力では彼の方が上だ、心配される側であることに間違いはない。

「……大事にする」
「携帯投げないで下さいね」

――――そもそも投げた覚えがない。
が、山本が言うなら、気を付けよう。
大事な大事な、俺のお守りの名はオニキスという。調べてみたら、厄よけで有名な石だとわかった。京子のよこした手芸セットの中には、入ってなかった(そもそも何故俺に手芸セットを送って寄越した京子)。
ということは、彼が買ってきたのだろう。どんな顔してレジに行ったのか、聞いてみたいが聞いたら泣かれそうなので止めておく。
彼の手慰みは、次は何になるのだろう。
そんなことを考えて、携帯にぶら下がったブレスレットを見やる。山本が作ったと言うのは、内緒だな。
俺の特権だ。





I pray you follow happy days.
20120705 R
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