少年達の日々。3


□どうしても。
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風邪で学校を三日も休んだ。
んで、全快して。


(……なんだろ、なんか)


気後れする。


どうしても。





学校をこんなに長く休んだことは今までない。オレはいつだって健康優良児で学校に行っていたし、部活だってやっている。店の手伝いにロードワークもある。へこたれてなんかいられない。そんなオレが学校を三日も休んだのは理由がある。風邪だ。声の出せなくなる質の風邪を引きやすい体質か、それのひどいのを引っかけて休んでしまった。それが、なかなか治らなくてずるずると三日。休むと連絡するのは親父ではなくオレの仕事なので、担任に嫌みを言われながら休みの連絡をするのは正直疲れた。
――――そのせいかもしれない。
元気になって、声も出て、親父にもオッケーをもらったんだけど。学校、行きづらい。というのが今の心境。ロードワークも終えて(短めにしたから先輩に会わなかった)、飯の支度だってして、それなのに。なんだろう、不安になる。何となく、もやもやするのだ。嫌な感じだ。


(担任に叱られるのなんて、監督に叱られるのに比べたら)


よっぽどマシじゃないかと、思うんだけど。そうでもなかったか。嫌みというのは、心の中にとげのように残るらしい。だって、今もなお、耳に残っているから。行きたくないではない。行きづらい。

「はぁー……らしくねぇ」

ようやく出るようになった声、これは本当はこんな風には使いたくなかった。元気に朝からツナのところ行っておはようと言いたかったし、獄寺にもおはようを言いたかったし。なにより、先輩に会って、元気になりましたと、心配してくれてありがとうございましたと、言いたいのに。
そう、今回の風邪でも、やっぱり先輩は何くれとなく看病に来てくれて。リンゴを剥いたり、ノートのコピーを持ってきてくれたりして。世話を焼いてくれた。学校に行けば、先輩に会える。それは、オレにとってご褒美が目の前にぶら下がっている状態で。


(行く、行くから、会いたい、会って、ほめて)


よく風邪を治してきたと、ほめてほしい。よく学校に来たと、言ってほしい。それが今のオレの何よりの願いだ。先輩にほめられるのは、嬉しいから。嬉しくて、胃の上のあたり、胸の奥がほんわりするから。
――――登校途中に、会えるかな。ツナの家に寄っていく途中に、会えるだろうか。そうしたら、少しだけでも二人の時間をもてるだろうか。風邪で伏せっていた時の二人の時間も良かったけれど、いつも通りの二人の過ごし方で、いちゃいちゃしたい。子供のように(実際子供だけど)ほめられて、甘えたい。なんか、先輩に頼りきりだ。けど、どうしても。オレの行動の原動力になるのはあの人で。だから望んでしまう。先輩の行動、先輩の言葉、先輩の心。全部ほしい。

「いってきまーす」
「おう、気をつけてな」

親父に手を振って、家を出る。大丈夫、行きづらくても。行ったらほめてもらおう。良く来たなって。偉いぞって。だから大丈夫。もう元気なのか、って。無理はするなよ、って。言ってくれるから、あの人なら。


(すげー他力本願)


「山本?」
「う、お、はい、先輩。おはようございます」
「もう良いのか」
「はい」

笑って答えると、先輩がよく頑張って治した、と頭を撫でてくれた。これは、嬉しいサプライズ。期待してたけども、さ。嬉しくて、抱きつきたくなるけれど、ここは公道。他の人もいるわけで。ちょっと我慢。

「えらいぞ、よく来た。また学校で会えるな」

嬉しいぞ、と言われて、こっちがノックアウト。かっと顔が熱くなってしまって、熱が出たのかとまた先輩に心配されてしまった。けれど。
これは、そういうんじゃなくて。


(心臓に悪ぃ)


担任の嫌みなんか、ふっとんだ。

「? どうしたのだ?」

無意識に、でも確実に、オレを支えてくれるこの人がいるから。オレは大丈夫。行きづらくっても、平気。だって先輩がいてくれる。

「いや、好きだなぁって」

思っただけです、と答えると、今度は先輩が赤面して黙り込んでしまった。よくわからないけれど、どうしたってオレはこの人が好きだから。前言撤回はしない。


(ありがとう、先輩)


アンタがいてくれるだけで、オレはこんなにも強くなれるんだ。
知ってましたか? 知らないでしょ。





I pray you follow happy days.
20120119 R
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