図書室(短編)

□嘘に溺れてしまいたい
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「ん……甘」

当然だ、ケーキの生クリームだけ取って舐めてるんだから。
そう自分にツッコミを入れてみる。
つかさ…ケーキ3ホールも送ってくるなよ姉ちゃん。

「さすがに3ホールは太りますよ? 大丈夫なんですか?」
「だいじょーぶ、夜に消耗するから」
「俺は手を貸しませんよ」
「っち…」

いつもこんな風に誘ってるのに…どうして断るんだろ。
そりゃあさ…執事とかの建前とかあるだろうけど…

    恋 人 な ん だ か ら

そう思うことだって少なくない。
あいつの態度に…俺は不安になるばかり。

「…なあ、お前は俺のこと……本当に好き?」
「……勤務中です、お返事は保留で」
「ダメ!! 絶対に今返事しろ!」

汚れていない手で燕尾服の裾を掴んで懇願する。
なにが悪い…? 俺の何が悪い? お前が執事だから? 俺が主人だから? それともなに…?

    今 ま で の は 嘘 ?

「……好き、ですよ」
「…嘘」
「嘘なんかじゃありません、好きですよ…」


    嘘 は い ら な い
     ど う し て?

「ならどうして…どうして俺が聞いたときだけ好きって言うんだよ!! なんで自分から言ってくれないの…? どうして!?」
「……それは…」

口ごもる。嘘なんだろ…?
社交辞令…だっけ、もう何でもいい。
俺だけが好きなのは苦しい、もういやだ…どうして…どうして…

「…貴方が主人だから、私は我慢しなければいけません。主人には手を出せない、傷つけられない…。貴方が愛しすぎるから!」

…ああ、幸せだな。
嘘でも…こいつに好きって言ってもらえると安心する…。
大好き、嘘でもいいから……ひとつになってしまいたい。

「嘘なんて…つくわけがないでしょう? 愛しています、貴方だけを…ずっと」


       愛 し て い ま す



それは、本当か嘘か…
俺は知る由もないけど…でも、それに溺れてしまえば楽になれるのか…とか…
そんなことにか考えてなくて…
生クリームのついている手の甲を見つめられて恥ずかしいとか思ったり…
でもやっぱりこいつが好きで…
頭の中がゴチャゴチャになって…
「いけない」ってわかってるのに…





―――――溺れたい……
―――――捕らわれたい……
―――――傷つけられたい……
―――――キスされたい……
―――――愛されたい……


俺の不安は、まだまだ続いていく…
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