頂き物

□七海様よりキリリクA
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 * * *



夕飯の準備をする刻限になった。ザックスは昨日クラウドの母からお願いされたシチューの仕込みを始めることにした。
買い出しに行かねばならない物がいくつかあったので、手持無沙汰だったクラウドがそのお使いを買って出た。
先ほどのこともあり、ザックスが自分が行こうかと申し出たが、「買い出しに行くお店の場所を知らないだろ」と言われて、大人しくクラウドの母と二人で家に残ることにした。
クラウドとしても、もうあの程度ことでザックスを頼りたくなかった。村を出た頃ならいざ知らず、今は一般兵といえども軍隊に所属しているのだから、あれくらい一人で対処出来るという自負もあった。

ザックスとクラウドの母はイスに座っておしゃべりに興じながらジャガイモなどの野菜の皮を剥く作業を始めた。
「それにしてもお母さん美人だなあ…とてもクラウドくらいの子供がいるようには見えないですよ」
聞けばクラウドを産んだのは十代の頃で、現在三十代だという。
ザックスは逆に母親が年を経てからの子供だったので、これほど若い母親がいるということは単純に驚いたし、羨ましく思えた。加えて自分の母親とまるで雰囲気が違う。自分のとこはもっとどっしりとしていて、こんな上品じゃなかったな…というのが正直な感想だった。
「こんなおばさんつかまえてお上手ね」
クラウドの母はフフフと少女のように笑った。それが妙にかわいらしかった。
「いやいや、お世辞じゃなくて。それにクラウドそっくりだからびっくりしましたよ」
「昔からよく言われてねえ…でもあの子それを気にしてたみたいで」
「え?」
「さすがにもう言わないけど、昔はお父さんに似せて産んでくれればよかったのにって」
「あー…それは…」

クラウドは自分が女顔であることにコンプレックスを抱いていた。
神羅に入社してからもそれはずっとあって、ザックスが出会った当初もそのような印象を受けたので、つい口にしてしまったところ盛大に怒られたことがある。おまけにそれからしばらくは口もきいてもらえなかった。


一通り皮を剥き終わり、台所にそれらを運ぶとクラウドの母がお茶にしようとお湯を沸かし始めた。クッキーを乗せた皿を持って再びテーブルに着くと、先ほどの話の続きを話し始めた。
「誰かにからかわれたのかしらね。ここの子とあまり仲良くなれなかったし…片親のせいかもって悩んだわ」
「いやそんな」
「だからあの子がザックスさんのこと手紙に書いてきた時はとてもホッとしたのよ。友達が出来て、楽しくやってるのがわかって。ここを出て行くって言い出した時はあの子がミッドガルみたいな都会でやっていけるのか本当に心配で…」
「お母さん…」
俯いていた顔を上げるとクラウドの母はザックスに向かって破顔した。
「あなたと友達になれて本当にうれしかったのね。友達が出来たって手紙が来てからはあなたのことばかり書いて寄越すの」
「……」
「そういえば少し前に突然ザックスさんのこと手紙に書かなくなった時期があったけど…ケンカでもしてたのかしら?」
「あ、いや、全然ケンカなんて…」
ザックスはともすればニヤけてしまう口元を手で覆い隠した。
そんなことなど露知らず、クラウドの母はザックスの空いてる手を両手で包むと再び笑いかけた。
「あの子と仲良くしてやって下さいね。お父さんに似てちょっと気難しいところがあるけど、根は素直な子だから…」
ザックスは口元にやっていた手でクラウドの母の手を取った。
「もう、よーくわかってます。ちょっとばかし意地っ張りだから苦労してますけど」
「仕方のない子ねえ…」
「そういうところもかわいいですから」
「まあ…」
クラウドの母が何か言おうとしたところで、玄関のドアが開いた。
「ただいま」
「お、おかえり〜」
ザックスは上機嫌で席を立つと自宅にいる時のような自然な動作でクラウドの元へ向かった。
「寒くなかったか?」
クラウドが手に持っていた荷物を取りながら、ザックスは頭を優しく撫でる。
「あ…うん、寒くないよ」
母親の視線が気になったクラウドが目配せをすると、ザックスもパッと手を離した。
「そ、そうだよなー、北国育ちだもんな!」
言いながら今度はクラウドの背中をバンバンと叩いた。



 * * *



その日の夕飯のメインはザックスの作ったシチューだった。それ以外の付け合わせなどは全てクラウドの母が作った。
クラウドの母はシチューを掬って食べると、にこりとザックスに微笑んだ。
この笑顔も明日で見納めか…とザックスは少ししんみりした気持ちになった。
クラウドも母の手料理を噛み締めるようにして食べた。

翌日の出発が早かったので、二人は早々に入浴を済まし、あとは寝るだけとなった。
あと何時間後かにはもうここを発ってしまう。クラウドは名残惜しそうに窓から外を覗いた。
その後ろ姿を見つめていたザックスは、昼間クラウドの母と話したことを思い出した。
それと同時にいつだったか突然思い立って寮に押し掛けた時、書いていた手紙を慌てて隠すクラウドの顔がなぜかりんごのように赤く染まっていたのを思い返す。


    あなたと友達になれて本当にうれしかったのね

       友達が出来たって手紙が来てからはあなたのことばかり書いて寄越すの


「あ、雪が降ってきた。ねえザックス、明日…」
クラウドがそう言いかけたところでザックスはその首に腕を巻き付けながら胸の中に細身の身体を抱き込んだ。
「え…どうし…」
突然のことに戸惑うクラウドにザックスは耳元で囁いた。
「…あっためて」
「な、なんだよ、急に…」
その言葉の裏に秘められた意味を理解し、クラウドは頬を赤く染める。
そしてザックスはさらに甘えるような声で言った。
「オレ南国育ちだもん。雪なんて降ったら寒くて風邪引いちまうよ。人肌であっためて」


クラウドが服を脱いでベッドに潜り込むと先に入っていたザックスが待ってましたと言わんばかりに抱き付いた。
「ひゃっ」
「あったけー」
抱き付いたザックスも裸で。お互い生まれたままの姿でベッドで抱き合った。
「…本当にちょっとだけだからな」
「わかってるよ」
ザックスはなめらかな肌の感触を楽しむようにクラウドの身体を触り回すと、一際熱を持ち始めたそこへ手を伸ばした。
「あ、ん…こっちじゃしないって言ってたのにウソつき…」
「だってお前かわいいんだもん。仕方ないだろ」
「なに、それ…」

外はすっかり吹雪いていたが、互いを暖め合うように身体を絡め合わせる二人の間の温度は次第に上昇していった。
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