頂き物

□七海様よりキリリクA
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ニブルヘイムへ向かう移動車の中でのことだ。
二人以外に客は乗っておらず、席を悠々と利用出来た。
乗り物酔いで少々気分の悪そうなクラウドを心配しつつも、車の揺れの気持ちよさからザックスは次第に微睡み、眠りに落ちていた。
その夢の中で歌が聞こえてきた。
楽しげなその歌を歌いながらクラウドが笑顔でこちらに手を伸ばしていた。ザックスがその手を掴もうとしたところで身体がガクンと揺れ、目が覚めた。
「♪〜……♪♪」
「…ん?何その歌」
「うわ!お、起きてたの?」
ザックスに歌を聞かれていたことに気付き、クラウドは少々照れた様子を見せた。
「夢の中で歌が聞こえてきた…」
「ニブルの民謡だよ。なんか懐かしくなって」
酔いを紛らわすために口ずさんでいるうちについつい乗ってしまったという。そういえばクラウドが歌うのを聞いたのはこれが初めてかもしれない。
「そっか…じゃあそれを子守唄にもう一眠りする」
「あ、ちょっと…」
ザックスは隣に座るクラウドの膝の上にコテンと頭を落とすと再び眠りに入った。するとまた遠くであの歌が聞こえてきた。夢の中のクラウドはザックスの髪を優しく梳きながら静かに微笑んだ。ザックスはさっき掴み損ねたその手を今度はしっかり掴まえた。

楽しそうに故郷の民謡を歌うクラウドを思い出し、ザックスは心の安寧を取り戻した。


二人はカウンターにカップを返しがてら、マスターに礼を言った。
「帰ってきたらまたいつでも寄りなさい」
「ありがとうございます」
「お前さん、神羅で働いてるんだろ?」
「あ、はい…」
またソルジャーのことを訊ねられるのだろうかとクラウドは少し顔を曇らせた。
「ビアズリーのとこの息子いただろ。ヤツもミッドガルに行ったんだよ。神羅に入社するつもりが雇ってもらえなくて、今じゃ向こうのスラムで働いてるそうだ」
ビアズリーの息子とはクラウドと同年代のケインという少年のことで、当然ながら仲は良くなかった。皮肉屋で少々乱暴なところがあり、クラウドも特に苦手に感じていた少年だった。
クラウドがニブルヘイムを出る時も、お前がソルジャーになれるわけがないと揶揄してきた。そのケインがまさかミッドガルに来ていて、それも神羅に入社しようとしていたなんて寝耳に水だった。
「そう…ですか」
「神羅ってのは大企業だけあって入社するのも大変なんだな。そこでちゃんと働いてるなら大したもんさ。神羅で何やってるんだね?」
「神羅軍の兵卒です」
「そうかそうか、立派なもんだ」
母親以外からそんな風に言ってもらえるとは思っていなかったのでクラウドも素直にうれしかった。
「あんたもかね?」
「ん?まあな。おじさん、コーヒーごちそうさま。美味かったよ」
マスターの問いかけを適当にごまかしながらザックスはクラウドの身体を引いて店を後にした。



喫茶店を出て、そろそろ帰ろうとクラウドの家に向かっていた時だった。突然背後から声を掛けられた。
「おい、クラウドだろ?」
振り向くと、クラウドと同じ年頃の少年が二人立っていた。
「…友達か?」
「ん…まあ」
言葉を濁すクラウドに友達と呼べるほどのものじゃないのだとザックスも悟った。そもそも故郷に友達はいなかったと聞かされていたのをすっかり忘れていた。
「ミッドガルから帰ってきたんだって?」
「ソルジャーにはなれたのかよ」
明らかに小バカにした口調だった。しかしクラウドは慣れ切った様子で淡々と言葉を吐いた。
「…ソルジャーにはなれなかった。話はそれだけ?」
すると少年二人はそれ見たことかと笑いだした。
「ほらな。お前じゃなれないってみんな言ってただろ?それでノコノコ帰ってきたわけか」
「ティファも呆れてるよ」
感情を押し殺していたクラウドが、その名を聞いた途端に表情を一変させた。その瞳は怒りに燃えていた。
しかし怒りにまかせて怒鳴るでもなく、クラウドはきゅっと口を結んでじっと耐えた。

何も言い返されないのいいことに、調子づいた二人がクラウドを更に煽る。
「神羅で働いてるのも実はウソなんじゃないか?」
「だよな。あのケインだって入れなかった……」
クラウドのすぐ横で凄まじい気迫を持って自分たちを睨むザックスの存在に気付き、二人は黙り込んだ。
「…そういう言い方はないんじゃねえの?故郷離れて一生懸命働いてるヤツに向かってさ」
「な、なんだよ。あんたには関係ねえだろ?」
ザックスは素早い動作で二人の手首を掴むと自分の方へと引き寄せた。
「関係ねえってことはねえよ。一緒に神羅で働いてるダチがコケにされてんだからな…」

「ちょ、ちょっとザックス…」
殺気にも似た威圧感を肌に感じ、クラウドも止めに入るが、ザックスは二人の手をがっちり掴んで離さない。
そして蒼く光る魔晄の瞳で怯える二人を睨んだ。
「ひっ…こいつ、ソルジャーじゃ…」
「セ、セフィロスと同じ眼だ…」
ソルジャーの持つ魔晄の瞳は英雄セフィロスの知名度共にミッドガルから遠く離れた地方へも広く知れ渡っていた。その常人離れした力の凄まじさも同様に。
「…お願いだからオレの大事な友達に絡むのやめてくれない?」
ザックスはニッコリと笑顔で言うものの、両の手に込めた力をそれに反して強め、ギリギリと骨が軋むほどに二人の手首を締め上げる。
「いてえっ!いてえよ!」
「や、やめてくれ!オレたちが悪かった!」
かぶりを振りながら必死に謝罪の言葉を叫ぶ二人に、ザックスはあっさりとその手を解放した。怪物並みの強さを誇るソルジャーが相手では敵うわけないと二人は一目散でその場から立ち去って行った。
「嫌なヤツらだな」
「ちょっとやり過ぎじゃ…」
「は?あんなの手加減しまくりだよ。本当なら思いきり殴り飛ばしてやりてえところあれで済ませてやったんだぜ」
「…も、いいから帰ろ」
クラウドはザックスの顔を見ないようにしながら手を引いた。
顔を逸らす瞬間に見えた頬が赤く染まっているのをザックスは見逃していなかった。
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