頂き物

□七海様よりキリリク@
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クラウドの母は息子であるクラウドより少し背が低く、畑でキラキラ輝く小麦のような金髪を後ろで纏めていた。ツンツンした頭髪、肌の白さ、そして何よりどこか幼さを残すその顔はクラウドの容姿が母親譲りであることを一目で納得させた。
前掛けをした格好が家庭に入った女性であることを表していたが、逆に生活感のない服装をしていれば、クラウドほどの年頃の子供がいるようには見えないかもしれない。美しい女性だとザックスは思った。
「遠いところをようこそ。…手紙に書いてあった通り素敵な人ね」
「え?手紙に?」
その二文字に食いつくザックスにクラウドはドキリと胸を弾ませた。
「この子ったらあなたのことばかり手紙に書いて…」
「ちょっと!やめてよ母さん!」
「そうなんすか〜。オレのことばっか書いてるんすか〜」
背後でニヤけるザックスに軽く肘鉄を食らわすと、クラウドは母親に取りすがった。
「ほ、他のことも書いてるだろ?」
「あら、そうだったかしら…」
とぼけているのか本当に記憶がないのか、首を傾げる母にクラウドはガクリと肩を落とした。
対するザックスは予想外にうれしい話を聞くことが出来て到着早々すっかり舞い上がっていた。



 * * *



つい玄関先で話し込んでしまい、クラウドの母は慌てて二人を中へと招き入れた。
沸かした湯を陶器のポットに注ぎながらお茶の用意を始めた。母は手伝おうとするクラウドを今日はお客様だからとイスへ座るよう促した。
「よかったわ。雪が降らないうちに着いて」
「うん。予報だと明日か明後日あたりに降るみたいだね」
「今はまだ雪降ってないからいいけど…ちょっと困ったことになっちゃって」
「どうかしたの?」
「ストーブの調子が悪いのよ。修理に来てもらおうと思ったんだけど今日は来れないって言われて」
「あ、じゃあオレが見ますよ」
ザックスは荷物を床に置いてコートを脱ぐと故障してしまった円筒型のストーブの元へ向かった。
中を調べてみると故障の原因は大したものではなく、少し手を加えてやっただけで元通り稼働するようになった。
「着いたばかりなのにごめんなさいね。でも本当に器用ね」
「ああ、これぐらい大したことないっすよ。お母さん、裁縫で生計立ててるんでしょ?それに比べたら全然」
「裁縫と料理は子供の頃から母に厳しく仕込まれたの。出来ないと嫁に行けないってよく脅されたもの。…うちの子も不器用ってわけじゃないんだけど、特に料理が本当にダメでねえ」
そう言われて、クラウドも対抗心を燃やしたように声を荒げる。
「オレだって簡単な料理くらいは出来るようになったよ!」
「そうだったの?手紙に書いてなかったから…何か作れるようになった?」
「あ…スクランブルエッグとか…サラダとか…」

そのスクランブルエッグに卵の殻が入っていたのは記憶に新しい。サラダも輪切りにしたトマトとスライスした玉ねぎを盛っただけのごくシンプルな物だった。
ザックスは煤で汚れた手を洗いながら苦笑した。
「あとこの間パスタ作ってたよなあ」
「あら、そうなの?」
「パスタにケチャップ和えただけの簡単パスタだけどな」
「バ、バカにしてるだろ!?」
「え?オレはクラウドが日々ちゃんと進歩してることをお母さんに教えたかっただけだぜ」
くやしそうに頬を膨らませるクラウドがかわいくて、ザックスもついいじめてしまった。
それに母親の前にいるせいか、いつもより少し子供っぽくなっているような気がする。母親の前でだけ見せる顔をこうして見ることが出来たのだから、それだけでもこっちに来た甲斐があるというものだ。

「そういえばシチューがお上手なんですってね」
「いや、クラウドからお母さんの作ったシチューのこと聞いて真似て作っただけで」
「お客様なのにお願いして申し訳ないけど、もしよかったら明日作っていただけます?」
「ああ、オレが作ったのでよければ」
「まあ、うれしい。手紙で読んでから食べてみたくて」
ニコニコと楽しげに話すクラウドの母にザックスは笑顔で返す。
まるで少女のようにかわいらしい人だ。クラウドが女性だったらこんな感じだったのだろうか。
そんなことを考えながらザックスが隣のクラウドを見やると、ミッドガルにいた時とは違う、子供のような無邪気な顔で母親を見つめていた。



 * * *




村の観光は明日に回し、この日はもう遅かったので夕飯をとることにした。
クラウドの母は二人が来るからと昼間から仕込んでいた料理をテーブルに次々に乗せていく。
その中に、クラウドご自慢のシチューもあった。
「たくさん作ったからどんどん食べてね」
二人とも昼から何も食べておらず、遠慮せずに出された料理を平らげていった。
自慢するだけあってシチューも美味しかったが、ザックスは付け合わせの料理に引き付けられた。
「このミートボールうまいな…」
「隠し味があるんだよね」
「え?何だよそれ」
興味津々で聞き返すザックスにクラウドと母親は顔を見合わせて笑った。
「そんな大したものじゃないんですよ。村のどこの家庭にもある木の実のソースを少し入れてるだけ」
「ミッドガルには売ってないんだ」
「ふーん。ミッドガルにもあったらいいのにな」
「よかったらうちで作ったのがあるからお土産に持って行って下さいな」
「え?いいんすか?じゃあせっかくだからもらってこうか」
「うん」
食事の話から次第にミッドガルでの生活のことや神羅での仕事の話へと花が咲き、食卓を彩る話題は尽きなかった。
楽しそうに喋る息子と友達の話に耳を傾けながらクラウドの母は顔を綻ばせた。


食事を終えて入浴を済ますとクラウドの母が寝床の支度をしてくれていた。
客用のベッドもふとんもないのでクラウドがここにいた時に使っていたベッドを二人で使うことにした。
「ごめんなさいね。お客さんなんて滅多に来ないから」
「いえいえ、構わないですって。だって…」
向こうでもいつも同じベッドで寝てるからと言おうとしてザックスは口を噤んだ。
「え?」
「いやほら、二人でも全然余裕ですから!……なんか子供用にしては大きいような」
よくよく見てみると十代の子供が使っていたにしてはかなり大きめのベッドだった。その疑問についてはクラウドが答えた。
「これ元々父さんが使ってたベッドだから」

「あ、そうなの」
父親が亡くなった後もこのベッドは処分せずに残しておき、クラウドが一人で寝るようになってからはこのお下がりを使っていたのだという。大人用のベッドだったので、小さい頃は広々としたこのベッドが大層お気に入りだったらしい。

「それじゃ、おやすみなさい」
母が出て行った後、二人は小さなランプだけを点けてベッドに入り込んだ。ミッドガルでいつも一緒に寝ているベッドよりは少し狭いが、肌寒いこちらではぴっとりくっつくくらいが暖かくてちょうどよかった。
「オレの母ちゃんと全然ちがう」
「そう?」
「正直料理あんなに上手くなかったぜ…」
「ザックスが料理上手だからてっきりお母さんもそうなのかと思ってたけど」
「いや…下手じゃないけどすげえ大雑把。隠し味なんて言葉、聞いた記憶ねえよ」
「ふーん」
「それによ…クラウドのお母さん美人だな」
ザックスは寝返りを打つと、ランプに照らされたクラウドの顔を見ながらしみじみと言った。
「そう、かな」
「あれで未亡人か…村のおっさんどもが放っておかないんじゃねえか?」
「…知らない。でも母さん再婚するつもりはないって、大分前に言ってた」
「それだけ亡くなった親父さんを惚れ抜いてるってわけか……かー、いい奥さんだなあ。クラウドも未亡人になったらそうしてくれる?」
「なにわけのわかんないこと言ってんだよ!もう寝るよ!」
クラウドはザックスに背を向けるとランプの灯りを消した。
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