『dependence』






―手合わせをしよう…


そう言って、兵士がバスターソードを構えた。

吐く息が白い。獅子は地に伏した兵士に跨り、首筋へと刃を当てる。
先程からドクドクっと鼓動が煩い。早く、兵士が一言「負けた」と言えばこの手合わせは終わるのに。
「俺の勝ちだ。」そう言えば終わるのに。言えない。
不思議な青が己の瞳をジッと見つめた。

ぐるぐる回る己の思考

兵士の手からは刃が離れ、彼は今無防備な状態。勝者は自分だ。
それなのに、彼の瞳を見ているとどうしても勝利した気分になれない。
獅子は己の手が僅かに震えだすのに気付いた。

「…スコール」

兵士の手がゆっくりと獅子の頬に伸びる。
ひんやりとした、剣を扱う物とは思えない程繊細で、女性の様な手。

「どうしたい?」

兵士が、クラウドが笑う。少女の様に。悪戯を思いついた子供の様に。
それはまるで雪山で春先に目を出す草花。獅子はゆっくりと彼の瞳から視線をそらさないまま、上体を倒していく。

影が重なり、触れ合った唇がしっとりと濡れる。一度離れては更に求め、いつの間にかその手から刃は滑り落ち。彼をその場から逃がさない為に、両手で細い肩を地に押さえつけ。まるで獲物を捕えた獣。

唇から離れたそれはクラウドの首筋へと移動し、牙をたてる。

「い…ッ」

痕を残し、獅子は唇を離す。唇が僅かに赤い。
クラウドの首筋から流れる赤い滴を舐め、そうしてようやく獅子は身体を離した。

「やりすぎだろう」
「あんたが誘ったんだ」

苦笑しながら起き上がるクラウド。痛み、熱を持ち始めた首筋。グローブを外し触れてみると、ヌルリとした感触。流石に流血までとは言わないが、肌が傷ついている。見事な獅子の歯型を残して。

「…痛い。」
「クラウド」
「痛い、スコール。」

クラウドはスコールの目の前に立つと身体を倒し、もたれかかる様に抱きつく。両手をスコールの背に回し、彼のジャケットについているファーの部分に顔を埋める。

「どうしたら、この痛みは残るんだろう…な?」

それはいっそ、愚かな程純粋で、愛おしい願い。

「あんたが俺を殺してくれたら、俺はあんたの物になれるかな…」

心とは移ろいゆく物。何時、揺らぐともわからない。
ソレでなくとも、彼らには明確な記憶が無い。元いた世界も別々で、いずれ別離がやってくるだろう。今のこの瞬間の記憶すら、無くなってしまうかもしれない。

そうなるならいっそ…

スコールの手が、クラウドの細い首に回る。

「くすぐったいな」

クラウドは抵抗をしない。両手をスッと降ろし、なされるがまま。

「好きだよ」

瞼が降りて、クラウドの瞳が隠される。
不思議と気持ちは落ち着いていた。このまま、こうして彼を自分の手で。

でも‥

「…俺も、だ。」

クラウドの首から手が離され、自分の腕の中に閉じ込める。
瞳を開き、クラウドはスコールの腕の中で微笑む。

スコールの手は、まだ震えている。
一瞬だけでも、彼を失うことを恐れ、それは彼の心を傷つけた。
朧気な記憶。かつて、大切な人を失った彼は、失うことに敏感だ。

「スコール、これ。治してくれ。」

スコールの片手をとり、クラウドは僅かに血を溢す自分の首筋に当てる。
ぼうっと温かな光と共に跡は消えて行く。痛みも同時に引いて行き、クラウドは僅かばかり残念そうに。寂しそうに、傷の無くなった首筋に手を当てる。

「…クラウド。」
「ああ‥」

クラウドは僅かにつま先を立て、スコールへとキスをおくる。
離れて行く唇。スコールの腕の震えは止まっていた。


互いに傷つけ、癒して、それの繰り返し
貴方がいないと生きてはいけない
傷付いた私を癒すことが出来るのは、貴方だけ

これを、貴方はなんと現すのだろう?

答えは出ない
それでも良い
この関係がこの先もずっと続きますように



『私は貴方に  している』






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30様に捧げる相互記念!
ご要望に応えられているか激しく不安ですが;
最後の空いてる部分は、題名の通り(笑)
返品は可です!相互ありがとうございますvv

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