『キミの願い 僕の想い』


痛みは皆一緒

それなのに、貴方は誰かが傷つくととても辛そうな顔をする

そうして私たち庇う

白い肌に真赤な血を、痛みを、全てを負って


「…もう、いいよ。」

ティナが泣きながら、仰向けに倒れるクラウドの手を取る。
その瞳は半分閉じられており、呼吸は弱い。

「クラウド。もう、無理しないで!」

握りしめた手に力がこもる。同時に、今までせき止めていたものが溢れだし、涙となってクラウドの胸にポタリポタリと落ちていく。
先程迄戦っていたイミテーション。己と同じ形をした、紛い物のそれは異常な迄にティナに攻撃を加えた。
彼女がバランスを崩したと同時に放たれたファイア。よけきれず、咄嗟に防御の体勢を取る。だが、予想していた熱が彼女に届くことは無かった。

その身を盾として、クラウドがその背で攻撃を受けたのだ。
ティナの目の前で、彼は笑いながら「良かった」そう言って、グラリッと倒れた。
咄嗟に抱きしめたクラウドの体は弱弱しく、自分を支えていることも出来ない程傷ついていた。ティナはとどめを刺そうと襲ってきたイミテーションにありったけの魔力を込めたメルトンを放ち粉砕する。
だが、その力は足りず。イミテーションは崩れかけの身体を起こし、ゆっくりと二人に近付いてくる。

ティナは手を離せなかった。今、治療を止めればクラウドが死んでしまうかもしれないから。
イミテーションが迫る。剣を呼び、その手に握る。じんわりと手に滲む、汗。
魔力が高まる。イミテーションが魔法を唱えた瞬間、彼女の視界に真っ黒な羽根が舞った。

銀色の髪が風にふわりっと揺れる。長い刀身の刀がイミテーションを貫き、それはガラス細工のように砕けていった。
クラウドと同じ色の瞳が、ティナの腕の中でぐったりとしたクラウドを捕える。

「‥あ、なた…」
「クラウドに伝えておけ。いい加減にしろ、とな…」

その人物は黒い霧に包まれその場から消えてしまう。
確か彼はカオス側に属する人間の筈だ。だが、その思考はクラウドの苦しそうな声によってかき消される。

「クラウド、しっかり!」

ティナは焦っていた。クラウドが返事を返してくれない。
金色の髪に赤い血が付着している。背を流れる血が、止まらない。
必死にケアルをかけ傷を癒すも、クラウドは意識を取り戻さず、ただ。瞳だけが僅かに開き、苦しそうな呼気を繰り返すばかり。

「いや…どうして、クラウド…ッ」

傷が癒えてからも唱え続けたケアル。優しい、白い光が辺りを照らす。
幸いにもその光に気付いたセシルがすぐに駆けつけた。その後ろからは共に行動をしていたスコールとオニオンの姿。

「クラウド、しっかり。」

震えたままケアルを唱え続けるティナを落ち着かせる為一旦オニオンに預け、スコールはクラウドの脈を取る。
そうして目でセシルに合図すると、セシルはポーションを取りだした。

「気休めにしかならないかもしれないけど…」

ポーションをゆっくりとクラウドの唇から注ぐ。
開いたままだった瞳を閉ざしてやると、その体をスコールが抱き上げた。

「ティナ、もう大丈夫。クラウドはちょっと血を多く出してしまっただけだから。」
「でも、でもクラウド…」
「大丈夫。ティナのお陰で傷も治ったし、ゆっくり休めば目を覚ますよ。」

皆の所に帰ろう。そういって、座り込んだままのティナの手を取り、ゆっくりと立たせてやる。

「セシルもああ言ってるし、クラウドは大丈夫だよ。」

オニオンの言葉にコクリッと頷き、涙を拭いながら歩き出す。
先を歩くスコールに追いついて、腕に抱かれたクラウドを見れば若干顔色が戻ってきていた。ホッと胸を撫で下ろしながらも、胸の痛みはずっと消えなかった。


ホーム。と、呼んでいる秩序の戦士達が生活の場として過ごすコテージがある。
コスモスの力が残り、イミテーション達が入り込むことのできないその場所は戦士達の、唯一残された憩いの場でもあった。
傷ついてクラウドをその一室に運び、ベッドに寝かせてやる。
すると、丁度探索から戻ってきていたらしいライトが、オニオンから事情を聴き部屋にやってきた。

「クラウドの様態はどうだ?」
「大丈夫。そのうち、目を覚ますと思うよ。」

ベッドの傍らに椅子を置き、様子を見ているセシルは彼の言葉に頷く。
ティナの事はスコールに任せた。あのままでは、クラウドが目を覚ますまでケアルを使い続けそうだった。そうなれば、今度はティナが倒れてしまうだろう。

「…君が、通りかかってくれて助かった。」
「それはどうかな?」
「他の者だったら取り乱していたかもしれない。」

苦笑しつつ、セシルはふわりっとクラウドの金糸の髪を撫でる。
髪に付着した血は迄取れていない。後で拭いてやりたい、この髪に血は似合わない。

「ねぇライト。」
「何だ?」
「クラウドは、命がけで皆を守ってくれる。」

言葉を紡ぎながらセシルの表情は少しずつ曇っていく。

「でも、クラウドの場合は、自分の命はどうなってもいい。そんな風にとれてしまうんだ。」
「…ああ。」

それはライトも感じていたことだった。

「心配だよ。とても…ね。」

瞳を閉じたままのクラウドの手を握る。その手は、剣を持つ者特有の堅さを持っている。だが、同時に指は細く美しい。
その手を取り握りしめ、己の額にかざす。まるで祈る様に。

「君の事だって護りたいんだ。」

セシルの言葉はクラウドに届かない。それでも祈らずにはいられなかった。
その様子を見て、ライトは大きくため息を吐く。

「彼には、今度言わなければいけないな。」

そうしてライトはセシルの肩をポンっと叩くと「君も無理をしないように」そう言って退室した。


守らなきゃ
護らなきゃ

あの子を、あの人を、皆を…まもらなきゃ‥

失うのは嫌だ、置いて逝かれるのは嫌だ

だから


意識が浮上する。同時に、自分の腹の上に重みを感じた。
瞳を開くと視界に黄色いものがゆらゆらと動いている。
そっと手を伸ばし握ると、

「ぎゃッ!!」

悲鳴と共に、握った物の毛がブワリっと膨らむ。

驚いて手を離すとそれはクルリッと回転し、クラウドに抱きついてきた。

「目ぇ覚ましたんだな!良かった〜」

抱きつかれ、そこでようやく気付く。

「‥ジタン?」
「ああ。おはようクラウド。」

ジタンが体を退けた為、ゆっくりと体を起こす。
体に痛みは無く、一瞬何故自分がこの部屋で寝ているのかわからなかった。
瞳を彷徨わせるクラウドに気付き、ジタンがクラウドのおでこをピシッと軽く叩く。

「‥痛い。」
「あのな。クラウドはティナちゃんを庇って大怪我して、運びこまれたの!」

ジタンの説明にようやく記憶が繋がる。
確かティナがイミテーションに攻撃を食らいそうになっていて‥

「身体、大丈夫なら広間行こうぜ?」

ジタンに差し出された手を取りベッドから降りる。
身体に不調は無く、そのまま広間に向かって歩き出す。

広間に着くまでの間にジタンが話した内容によると、クラウドは三日間も眠っていて、その間戻ってきた全員で交互に様子を見てくれていたらしい。

「‥すまない。」
「いいって。これから、クラウドは怒られるんだし。」
「え?」

思わず聞き返してしまったが、ジタンはその後何も答えてはくれず。
広間に続く扉を開いた。

「皆怒ってるから、たっぷり絞られるといいぜ」

広間に着くとそこにいたのはバッツとフリオニール、それにティーダの三人だった。どうやら食事を取っていたらしく、空になった皿が三人の前に置かれていた。

クラウドが部屋に入ると気付いたバッツがニッと笑い、続いてフリオニールとティーダが手を振り、その場から少し離れた。

嫌な予感がして引き返そうとしたが、ジタンが扉を閉めてしまった為それもできない。更に、ティーダがパタパタと駆けてきて、クラウドの手をぐいぐい引っ張り、バッツの座る席の前にクラウドを押しこんだ。

フリオニールがクラウドの前に水の入った水を置く。
同じ様にバッツの前にも水を置くと、入口の扉の前へ移動した。

「あー、まずはクラウド!体調もう大丈夫か?」
「ああ、心配かけたな。」

これから何が始まると言うのだろうか?
クラウドの左右にはジタンとティーダが座り、逃げられない。

「これはライトさんから!探索がある為、直接君に伝えられない為、バッツに頼んだ。」

そう言ってバッツは辞書のように熱い書物を取り出し、開く。

「役者であるジタンのお墨つきだ、頑張れよクラウド。」
「はぁ‥」

一体何を頑張れというのだろうか?クラウドは出された水を喉に流し込みながらぼんやりと考える。と、

「君は戦士としてまず、自分をまもることから始めてもらいたい。」

クラウドはバッツの声真似に思わず水を噴き出してしまう。

「あークラウド拭いた。」
「そっくりだもんな〜」

笑いながらハンカチを取り出したティーダ。それを受け取り、クラウドは恐る恐る顔を上げる。
そこには表情迄ライトにそっくりなバッツが、まるで取り調べをする刑事の如く鋭い視線をクラウドに向けていた。

「仲間も守ることは確かに重要だ。だが、だからと言って君は自分の身体のことを全く気にもせず、さらには自らの命を手放そうとしているようにも見受けられる。君の身体が特殊で、傷の治りが我々よりも早いということは重々承知している、だが!だからと言って自らの身体を盾にすることは今後止めてもらいたい。なぜならば君も大事なコスモスの戦士であり、我々にとってかけがえのない仲間だからだ。これは、私達仲間が丸一日をかけて作り上げた結論である。図書館で見つけた例題を踏まえて、これから2時間程聞いて欲しい。傷に触るだろうから一時間に10分程の休憩を設けよう。質問は全て話しが終わってからだ。なお、話しを聞き終えた後、原稿用紙に感想文と今後の君の行動の取り方を記してもらいたい。君は「馬鹿馬鹿しい、何故こんなことを?興味ないね。」と言ったところかもしれないが、君の身が心配な私達の言葉をどうか聞き届けてもらいたい。
なお。この件に関しては私が居る場合は私自身が、不在の場合はバッツに代行を頼むものとして、彼を私自身だと思い紳士に受け止めてくれ。」

そこまで読み上げると、バッツは分厚い本を開きにっこり笑いながら言った。

「頑張れ」

ティーダがクラウドの前にササッと原稿用紙を置く。それは、通常バッツやティーダがふざけて物を壊した際に書かされる物と同じものだった。

「三枚以上書いて提出って、言ってたっスよ!」

ああ、ティーダの笑顔が眩しい‥

がっくりと肩を落としたクラウドは、その後。説教交じりライトの声真似をしたバッツの話を約二時間、延々と聞かされるのだった。



「‥‥以上だ。今後も、君の活躍に期待する。ウォーリア・オブ・ライト‥と!」

聞き終えたクラウドはどっと疲れが押し寄せてきた。長い。長すぎる。
更には、例題で出てきた、とある国の家族の話しにちょっと泣きそうになってしまった。
ティーダ等、途中から船をこぎ始め、今では隣でぐっすり眠っている。

「はい、クラウド!わからなくなったら読んでくれよな!」
「‥勘弁してくれ」

バッツはクラウドの前にどんっと本を置く。
こういったことは苦手だ。延々と語られたことだけでも既に参っているのに、更にこれから感想文迄書けというのか。
頭を抱えるクラウドの肩に、ポンっとフリオニールの手が置かれた。

「クラウド。書かなくてもいいから、皆に誓って欲しい。」
「フリオニール?」

フリオニールはそのままクラウドの身体を背後から抱き締めると、少しだけ力を込める。

「俺たちを守って、自分も守ってくれ。」

フリオニールの声は僅かに震えていた。
瞳を閉じかけて、開く。正面に座っていたバッツ、先程まで笑っていたのに、その表情は真剣で。隣に座るジタンもティーダも、同じような瞳でこちらを見ていた。
クラウドはズキリっと胸が痛む。皆の気持ちはとても嬉しい、しかし。

「俺は‥」
「クラウドが痛いと、皆痛いんだ。おんなじなんだよ。」

泣きそうな声音。何時も明るく、元気なティーダが涙をためた瞳でクラウドを見つめる。

「庇ってもらって、守ってもらって。でも、俺達だってクラウドを守りたいんだ。」

膝に置いておいたクラウドの手に、そっとジタンの掌が重なる。

「クラウド気付いてんだろう?でも、そらそうとしてる。」

バッツが身を乗り出し、机に乗り上げクラウドの髪に手を置く。
その手は下降し、俯いてしまったクラウドの量頬を掴む。

「俺達、そんなにやわじゃないし。だから。クラウド。俺達、後ろに隠れるんじゃなくてさ、一緒に歩きたいんだ。」



どんな気持ちで‥大切な人の背中を見送ってきたのだろう?
共に行動をする時間が長かったフリオニールとティーダは聞いたことがあった

クラウドの亡くしていった大切な人達

『あの子を、俺は守れなかった‥』

あの時の、瞳。悲しさと苦しさと、その全部。暗い部分を映したような瞳

「約束なんてしないで、守らせてくれ‥」

ようやく吐きだした言葉。
その重み。
四人はその言葉をぐっと飲み込む。言葉にしない代わりに、クラウドに触れたその力をぐっと込める。
これが答えだよ。そう、伝わるといいな。皆一緒、おんなじ気持ち。

「守って、そうして俺は‥そうしないと俺は」

震える身体を優しく抱きしめて、君に伝えたい
言葉にすると耳を塞いでしまうから

この手から伝わる温もりが少しでも届きますように


「強くなるよ、だからもう、大丈夫」

紡がれた言葉は誰のものだっただろうか?

優しい、誰かの言葉。

提出された原稿用紙

たった一行、君の荒い文字で書かれたソレ

「わかって、くれたようだな。」

文字を指で辿り、ライトは前をあるくクラウドの背を見つめる

彼の周囲を囲む仲間達
誰が彼の手を取るかで喧嘩をしながら、押し合いながら歩いてる

自分も遅れないように歩き始めなければ。
ライトは原稿用紙を綺麗に折りたたむと、歩き出す。

その言葉は‥

約束はいらない。でも、ありがとう

それが彼の出した、新しい答え


新しい答えを出した彼の背を上空より見守っていた影が一つ

「下らん感情から解き放たれたか…」

影はあざ笑うかのように、だが安堵した様にその様子を見守り、姿を消す。
自分以外の物によって負わされた傷を見た瞬間、たまらずイミテーションを粉砕していた。

「私の手以外で壊されることは許さん」

風に舞った羽根は誰に届くこともなく、空気に溶けた

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れいか様へ捧ぐ怪我したクラウドを心配するコスモス陣+αでした。αは誰にしようか迷ったのですが、セフィロスにしてみました。
遅くなってしまい申し訳ありませんでした><
この度は素敵なリクをいただき、ありがとうございましたv

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