『君に伝える言葉』



心配なんだ
そう言ったら、君は辛そうに笑うから

隠しているけど知っている
君のコンプレックス

何を願い、想い、剣を振るっているのか

いつか教えてくれたらいいな



その日。捜索を終えたティナとクラウドは、他の仲間と合流する為秩序の聖域を目指していた。
珍しく女性二人旅。出現するイミテーションもそれほど強くはなく、順調に見えた帰り道。ティナがクラウドの横顔を見るとその顔色はどこか苦しそうで、ティナは少しでもいいから休憩をしようと提案する。
しかしクラウドは首を縦には振らず、ティナが大丈夫ならとそのまま歩き始めた。

「でもクラウド、最近体調悪そう。」
「大丈夫だ。」
「でも」
「すまないな、ティナ…」
「本当に大丈夫?」

心配そうに自分を見つめるティナに「大丈夫」と言って、クラウドは微笑む。
秩序のメンバーの中でもたった二人。女性であるティナとクラウド。
魔法を主とし。遠距離攻撃や補助的な役目を負うティナに比べ、クラウドは巨大な剣を扱い前線で戦う戦士だ。
戦場は男女だからと言って差別をしない。戦士として剣を振るわなければ自らの命も、仲間も守れない。

そう、守れないんだ…

体調が悪いことは本人が一番良く知っている。
だが、皆に余計な心配などかけたくない。

「クラウド、大変!」

ティナの声に視線を移せば大量のイミテーションと戦う仲間の姿。
クラウドはすぐにでも落ちてしまいそうな意識を何とか保たせ、少し離れた場所で戦う仲間の応援へと駆けていく。その背を、ティナは複雑な思いで見送った。


女神コスモスの聖域近く。不思議な森の中で秩序の戦士達が全員揃った。久しぶりの再会に喜び、あふれる笑顔と様々な武勇伝。
特に元気なティーダにバッツ、それにジタンが加わり一層盛り上がる会話。
そんな中。クラウドの隣に座っていたフリオニールがゆっくりと手を挙げた。
気付いたライトが騒いでいた三人にシャイニングウェーブを放ち「静かにしろ」と牽制する。

三人はスレスレでそれを避け、抗議しようとした所で気付く。

「クラウド、寝ちゃってるね…」

オニオンの言葉に全員が頷く。
瞳を閉じればまだ幼く感じられるその寝顔。
仲間達が集まったことで安心したのかも知れない。
クラウドはフリオニールの肩に寄りかかりすやすやと心地よさそうな寝息を立てていた。

「クラウド、最近あまり眠っていなかったみたいなの…」

ティナの言葉に全員がクラウドへと視線を向ける。
よくよく観察すれば、確かに目の下にくっきりと浮かぶ隈。気のせいでなければ、以前よりもほっそりした気さえする。

「疲れているんだろう。」

休ませてやろう。そう言って、スコールがクラウドの体を横抱きに抱きあげる。
起きるかと思ったが、余程眠りが深いらしい。起きることなくクラウドはスコールによってテントへと運ばれていく。

「いつか。無理し過ぎて倒れないと良いけど…」

セシルの言葉がみんなの心に響いた。


翌朝。

「昨夜はすまなかったな。」

起きてきたクラウドは昨夜よりも顔色が良くなっていた。
朝一番に出会ったライトへと言葉をかけたクラウドは、そのまま顔を洗うと言って近くの小川まで向かう。
途中オニオンとすれ違い、昨夜の出来事で心配をかけてしまったことを知る。
湖の冷たい水で顔を洗いながら心の中に秘める思い。それがゆっくりと滲みだす。

「絶対に、みんなを守るんだ…」

かつて失った友を思いながら、振るった水は朝日に反射して宝石のように煌めいた。


しばらくは全員で行動をしようと決め、コスモスの聖域からイミテーションが多く出現する場所を一気に駆け抜ける。
前衛で戦うスコールとライト、援護にフリオニールとオニオン。後方を守るクラウドとセシル、それにバッツ。ジタンとティーダ、ティナは其々身軽さを生かし仲間達の支援をする。
とにかく数が多かった。レベルは低いとはいえ、一瞬の隙が何を生み出すかわからない。其々一時も休まずとにかく前に進んだ。

特に後方からの敵はしつこく戦士達の足を引きずり、前に進ませまいと縋りついてくる。三人は力を合わせ前に進むための道が出来るまでの時間を稼ぐ。
途中からジタンも後方支援に徹してくれたため、大分数は少なくなってきた。

「あと少し、頑張ろう!」

セシルの言葉に頷きながら、上がる息を落ちつけ大きく息を吸い、吐く。
そうして再び踏み出した一歩。だが、

「‥あ、れ?」

クラウドが踏み出したはずの一歩はバランスを失い。そのまま、かたい地面へと落ちていく。

「クラウド!」

咄嗟に気づいたジタンが体を支え、襲ってきたイミテーションを粉砕する。
ジタンの声に気付いたティーダが駆けよりクラウドの体を抱き起こす。だが、その顔に血色はほとんどなく、唇から洩れるのは苦しそうな呼気のみ。

「クラウド、しっかりしろ!」
気付いたセシルがバッツと視線を交わす。
「ジタンはこのままクラウドと下がって!ティーダ、一緒に後方お願い出来るかな?」
「もちろんッス!」

セシルの判断でジタンはクラウドの体を抱え駆けだす。
背後で大きな水柱が立ちあがった。おそらく、バッツが魔法を使ったのだろう。

「クラウド、しっかりしろよ?!」

抱えたクラウドの体。女性の体とはいえ、驚く程軽かった。



額に冷たい感触。
優しい手の、温もり。

重たい瞼を開けると心配そうに自分を見下ろすフリオニールの顔が映った。

「まだ寝ていろ。熱があるんだ」
「‥ね、っ?」

喉が熱くて、乾いて痛い。熱が出ているからだろう。朦朧とする視界。
節々が痛くて起き上がることも出来ない。クラウドは声を出そうとして咳き込んでしまう。

「いいから、ゆっくり休め」

フリオニールの手が金色の髪を優しく撫でる。

「ほかのみんなは立ち入り禁止にしてる。まあ、その…色々、な?」

そう言ってフリオニールはそわそわと視線を彷徨わせる。

「今、替えの水持ってくるから。あ、勝手に抜けだしたらライトさんが怒るからな?」

絶対起きるなよ?悪戯っぽく笑いながらフリオニールが立ち上がる。そうしてテントから出て行ってしまった。
布団の中。体を丸め、クラウドは毛布を頭まで被る。

何てざまだ。これでは、全然役に立てていない。
皆を守るどころか心配ばかりかけてしまっている。

体調が悪い時は思考が一層悪いほうへと向いていく。

皆の様な力が欲しかった。男として生まれて、この剣、大切な人から託された剣に見合う様な者になりたかった。

潤んだ瞳が一層水気を帯び、熱い水が頬を伝う。

と、

「泣いてンの?」

突然。布団を捲られる。
驚いた視線の先、そこには何かを持ったバッツ。隣にはスコールとジタンの姿もある。

「…けホッ」
「ああ、ほら。寝てなって。」

言葉にしようとして咳き込んでしまう。
気付いたジタンが、ゆっくりと起き上がろうとしたクラウドの肩を戻す。
スコールは無言で手袋を外すとクラウドの額に手を置き、自分の額にも同様に手を置く、恐らく熱を計っているのだろう。

「熱いな」
「「そりゃあそうだろう!」」

スコールの診断にバッツとジタンが突っ込む。

「クラウドはゆっくり休むこと!」
「そうそう!」

バッツとジタンの言葉にクラウドは首を横に振る。
ゆっくり休んでいる暇なんて無いんだ。声にならないから、首を横に振った。

ペシッ

ジタンの突然の攻撃にクラウドは瞳を瞬かせる。ジタンがクラウドの額を軽く、叩いたのだ。

「休まなきゃ駄目だって!クラウドが頑張り屋なレディだったことは皆知ってるし、おんなじ位皆心配してる。だからさ、ゆっくり休んで元気になれよ。」

なおも食い下がろうとするクラウド。今度はバッツとスコールもジタンと同じ様に軽くクラウドの額を叩いた。

「ジタンに賛成!」
「同意見だ」

そうしてスコールは手に持っていた何か、かわいらしい人形をクラウドの横に置く。それはモーグリの人形で、実物と同じくらいの大きさがあった。

「本当はライトさんに秘密で入り込んだんだ。クラウド、実は寂しがり屋じゃん?」

バッツの言葉に反論しようとして、でも寂しかったのは確かだ。
むっとしながらもクラウドは渡されたモーグリの人形を抱きしめる。

「安心しろ。ゆっくり休むことがお前の任務だ。」
「「スコール重い!」」
「…邪魔をしたな」

そうしてスコールはジタンとバッツの体を引きずり出て行った。
取り残されたクラウドはモーグリの人形を抱きしめながら瞳を閉じる。
ちょっとだけ、軽くなった気がする。何が、かは…わからないが。


クラウドが次に目を覚ました時。そこにはセシルと、心配そうなオニオンの姿があった。

「ライトさんには秘密だよ」

そう言って、セシルはクラウドが好きな果実水をくれた。
オニオンはおろおろとした様子でクラウドの顔を見つめていたが、クラウドが微笑むとホッと胸をなで下ろす。

と、

「クラウドー体調どうッス…か?」

コソコソという言葉がこれ程似合わない登場の仕方は無いだろう。
ティーダが大量のお菓子を持って現れた。
どうやって手に入れたのか?両手いっぱいに抱えられたお菓子に、その場にいた三人は思わず笑ってしまう。ティーダは「これしか思い浮かばなかったの!」と言ってクラウドの膝の上にお菓子をぼとぼと落としていく。

「これ食べて、元気になって、クラウドはまた一緒に俺と剣の稽古をすること!」

ニッと笑うティーダ。その隣で、オニオンが「僕も!」と言って何時もより熱いクラウドの手を取る。その瞳は真剣そのもので、握られた手の力は強い。
そんな二人にクラウドは懸命に唇を動かして「ありがとう」と伝える。

「皆クラウドが大好きだから心配なんだよ?」

さっきも同じようなことを言われた。そんなことを思いながら、クラウドは再び瞳を閉じる。
そっと、傍らから三人が離れていく気配がする。少しだけ寂しい気もしたが、腕の中の人形を抱きしめて我慢した。


どれくらい眠っただろうか?目を覚ますと、今度は自分の傍らにティナとライトが居た。

「君は無理をし過ぎる」

怒鳴られていないのに強い圧力。クラウドは肩をビクリッと揺らし、布団の中に潜りこむ。なぜだろう、凄く悪いことをした気分だ。

「クラウド」

今度はティナの声。ゆっくりと布団の中から顔を出すと、心配そうな表情をしたティナが自分を見下ろしていた。

「あのね。ゆっくりでもいいの。だから、元気になってね?」

クラウドはまた布団の中に潜った。
嬉しい。嬉しくて泣いてしまいそうだ。
だから顔を見られないように布団を被って、この顔を誰にも見せない。
見せたら、また甘やかされる。甘えてしまう。縋ってしまう。

「ライトさんは出て行ってください!!」

ふと、泣きそうになっていたクラウドの耳に怒るフリオニールの声が入ってきた。何時もはあんな声を出さないフリオニールが、なぜ?
クラウドがのそのそと顔を出すと、フリオニールがライトを外に出そうと無理やりその背を押しているところだった。

納得がいかないと言った風に眉間に皺を寄せるライト。普段だったら絶対に逆らわないフリオニールが「ライトさんは外!」と言って突き飛ばすようにライトをテントの外へと押し出す。

そうしてフリオニールはコホンっと小さく咳払いをするとクラウドにとあるものを渡した。それを見てクラウドは目を丸くする。

「自分で、気付いて無かったのか?」

顔をゆでダコのように真赤にしながら渡されたそれにクラウドの顔も真赤に染まり、気付いたティナ迄もが顔を赤らめる。

「風邪と、なんだ…その。それのせいだと思う。体調不良…」

フリオニールの見解に、思い当たる節がありすぎてクラウドは情けなさに顔をゆがめる。痛む個所、情緒不安定、等など。

「皆には言わないから、しばらくは絶対安静だ。」

じゃあ俺はこれで、と言って外に出て行ったフリオニール。
残されたクラウドとティナは顔を見合せて笑った。

外ではフリオニールが皆の質問攻めにあっている。
申し訳無いと思いつつ、クラウドはありがたくフリオニールが持ってきてくれたそれを使う。原因さえわかってしまえば、後は熱が下がるのを待つだけだ。

「クラウド。元気になれそう?」

ティナの声に頷きながら、クラウドはやはり男に生まれたかったと思うのだった。

その頃外では…

「フリオニール、クラウドの体調不良の原因を君は知っているのだろう?!」
「バッツ!ライトさんの声真似するな!」

男性陣が何とかクラウドの症状を聞き出そうとフリオニールに詰め寄っていた。

「‥フリオニール、ちょいちょい…」
「何だジタン…」

しばらくうんうん唸っていたジタンだが、尻尾がぴコーンっと何かを受信したかの様に立つとフリオニールの耳元でボソボソと答えを伝える。
途端フリオニールはジタンの両手をガシッと取り、涙ぐみながら頷く。

「えーなんっスかジタン!わかったんすか?!」
「僕も、わかっちゃった…かな。」
「セシル…君もか。」
「ああ、なんとなくだけどね。」

キラキラと輝く微笑み、それは無言で「答えは教えないよ」と語っている。

「…成程。(そうかクラウドも女だもんな。)」

オニオンは「クラウドが元気になれば良いんじゃ?」と思いながら隣でジッとしている獅子の横顔を眺める。その顔は耳まで真赤で、片手で口元を隠していた。

結局クラウドの体調が治るまでの間、男性陣(フリオは除く)はクラウドのいるテントに入ることを禁じられブーイングを出す始末。あまりに騒いだものだから、バッツとティーダはセシルによってどこかに投げられたとか。

様々な事件を起こしながら、数日後。元気になったクラウドに全員が同じ言葉をかけた。

「もう大丈夫か?」

皆の想いが少しでも伝わればいいな
君が心配なんだ

早く伝えたい

「元気になって良かった」

最高の笑顔と共に、君に送るよ









******
久遠様へ

お待たせいたしました!
は、激しく色々と別要素迄入っており申し訳ありません;
あんまり女の子クラウドが前に出ておらずで><
そして予想以上に長くなってしまいました!!
よろしければ受け取ってやってください。返品可です。
この度は素敵リクありがとうございましたv

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