研一妄想小説
□「伊豆屋」
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俺と美咲は会社の車で目的地まで向かった。美咲はなぜかおとなしかった。
ふふふ。こんな高級車には乗ったことないのだろう。
「美咲さん、最近オープンした私の友人がしているブティックです。きっと気に入っていただけますよ。」
俺は緊張している美咲に声をかけた。
「は、はい。」
とだけ美咲はうなずいた。
道が空いていたので30分ほどで目的地に着くことができた。
「美咲さん着きましたよ、さあ。」
と、俺は学生服の美咲をエスコートした。
成人の男に手を差し延べられ、戸惑いと緊張が隠せない美咲は俺には新鮮で愛くるしかった。
美咲は戸惑いながらもゆっくり俺の手の上に白い手をおいた。
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「あら、社長!いらして下さったんですね。光栄だわ。」
と、ブティックのオーナー緑が喜んで出迎えた。
「緑さん、開店おめでとう。ちょっと近くまで寄ったんでね。」
「あら、今日は可愛いお嬢様とご一緒なんですね?」
「ああ、知り合いのお嬢さんでね。緑さん、今日は彼女に似合いそうな服を一式見たててくれないか?」
「はい、よろこんで!では何着かご用意いたします。こちらへ。」
と、緑は美咲を案内した。美咲はどうしていいかわからないという表情で目のやり場に困っていた。
「美咲さん、固くならないで平気ですよ。私がそばにいますからね」
と、俺は緊張している美咲に声をかけてやった。
店の奥にある個室になったフィッティングルームへ、緑は薄いブルーのふわりとしたワンピースを持ってきた。
「お客様、これなんかいかがでしょうか?」
と、緑が美咲にワンピースをあてている。
しかし美咲は自分がなぜここにいるんだろう?という顔で立ちすくんでいた。
「美咲さん、これは私からのプレゼントです。前にごちそうになったお礼ですから。」
俺は伊豆屋のマスターに以前「お袋の味思い出したすだろ?」と、ベラ定食をごちそうになった事がある。
「で、でも風太郎さん。これとあのベラ定食とは金額が違いすぎます・・・。」
と、美咲がもじもじ言ったが、
「私にとってあのベラ定食は、かけがえのない時間を提供してくれた大事なものだったんです。お金の問題じゃあないんですよ。」
そう言うと美咲は少し驚いた様子だったが、納得してくれた。
「そうだ!マスターにも何かみつくろってお土産に持って帰りましょう。」
と提案すると、美咲は少し落ち着いてきた様子で笑顔を見せ、試着室へ向かった。