研一妄想小説


「蒲郡家」
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「僕、お父さん大嫌い!」

「風太郎。そんなこと言っちゃだめよ。お父さんはね、本当はあんな人じゃあないの。」

「そんなこと言っても、いつもお母さん泣いてるじゃないか!」

「違うの。会社に悪い人がいて、間違ったことしたの全部お父さんのせいにされちゃって、それでクビになっちゃったの。それでお父さんやる気なくしちゃっただけなの。」

風太郎が何度も母桃子から聞かされる台詞だ。

風太郎の父蒲郡健蔵は、いつからかその辺で拾って来た女を家に連れ、妻と子供の前でその女とよろしくやるような男に変貌してしまった。

物心ついた風太郎にとって、そんな父は嫌悪の塊だった。

「僕の大好きなお母さんにそんなことするお父さんなんて、大嫌いだっ!」

辛い思いを父にさせられ、泣きながらも尚そんな父をかばう母を見ていられず、風太郎は家を飛び出してしまった。




まだ幼い小学生の風太郎が行くところなんて知れている。

新聞配達の手伝いで顔を合わせる学生、荻野の所だ。



「よぉ!風太郎。」

「お兄ちゃん。」

風太郎にとって荻野は良きお兄ちゃん。蒲郡家の事情を知りながらも風太郎にいつも優しくしてくれている。

「どうした?またお母さんにでも叱られたか?」

「・・・・・・。」

風太郎は何も言わなかった。

そんな風太郎の様子から何となく事情を察した荻野は、

「なあ、風太郎。今日な、チョコレートもらったんだ。食うか?」

荻野が話しを変えて風太郎にそう言った。

「え?お兄ちゃん、バレンタインチョコもらったの?」

「エヘヘ。ま、まあな。」

「すげ〜!」

「俺はあまり甘いもの食わないからさ、風太郎にやるよ。」

「うん!」

風太郎は荻野からもらったチョコレートをぎこちない手つきでクシャクシャ開きむさぼりついた。
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