研一妄想小説


「伊豆屋」
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俺はやっと金と権力を手に入れた!

俺はフッと思うズラ。ここまで来るのに何人の犠牲者を出しただろうって。。。

俺はようやく三國造船の社長にまでのし上がった。貧乏育ちの俺がここまでやっと来れたんだ。

こんな俺が唯一、昔の生活を懐かしめる場所がある。

それはおんぼろ定食屋の「伊豆屋」だ。

俺はここのベラ定食を目当てに疲れたときはフラリと足を運び、ゆっくりと母の味を懐かしんだ。

偶然だがどうやら俺は、家を出て行ったシンイチと言う名の伊豆屋の家族と瓜二つに似ているらしい。

そしてそんなこともあって、こんな俺をいつも歓迎してくれる。

ある日、伊豆屋の娘が帰ろうと伊豆屋を出て歩いている俺に声をかけた。

「ねえ、ちょっと待って。見せたいものがあるの。」

学生服のその娘が俺に近づいてきた。

この娘は伊豆屋のマスターの実の娘ではなく姪だ。事故で亡くなった娘の両親に代わって面倒をみているらしい。

「これ私のバカ兄貴。ね!似てるでしょ?」

と、一枚の写真を俺に見せた。

俺は驚いた。確かに目を疑うほどこのシンイチと言う男は俺に似ていた。

「バカ兄貴でも居ないとやっぱり寂しくて。風太郎さんが来るとみんなも喜ぶし、私もうれしいから・・・・。」

娘は俺を兄貴と錯覚し心をゆるしているのか、俺に素直な気持ちを伝えた。

(ん・・・?)

俺はふとある考えが浮かんだ。

「美咲さん、、、でしたよね?名前。」

「あ、はい。」

「少しお時間いいでしょうか?ぜひ見せたい物があるんです。よければ私の車でお連れいたします。」

「え?あ、はい。でも、あの、夕飯までに帰れますか?」

「もちろんです。大事なお嬢様ですからね、ご家族の方達には私からお話します。」

そう言うと、俺と美咲は伊豆屋に戻った。

「すみませんが、美咲さんをお借りできないでしょうか?」

「え?」

マスターは驚いている様子だった。無理もないだろう。

「いえ、実は私の知人がブティックをオープンしまして、是非美咲さんに見ていただきたいものがあるんです。夕方までには責任を持ってお帰しいたしますのでよろしいでしょうか。」

と紳士的に話を進めると、

「おう!そっか。いいよ。」

「ありがとうございます。」

「おい美咲、風太郎さんに迷惑かけんなよ?ハハハハハ!」

と、いつものマスターらしく笑った。

「迷惑だなんて。そんなことしませんよーだ!」

そんな美咲に

「ほら!そういうのがダメなんだよ、まったく・・・。すいませんね〜、迷惑かけたらいつでも叱ってやって結構ですからぁ〜。」

と言って、俺と美咲を見送ってくれた。
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