駄文(長編・中編)
□冤
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ボクたちが出会ったのは、ほんの些細な偶然からだった。
普段はまったく行かない棋院近くの公園。
たまたま近くで芦原さんと待ち合わせをしていたボクは、約束の時間までまだ大分あるのを期に、ブラブラと散歩を兼ねて公園内を歩いていた。
最近仕事が詰まっていたのもあって、気分転換をしたい…という気持ちが少しあったからかもしれない。
季節は秋。
風が幾分冷たくなってきたこの頃、その公園は銀杏の黄色い葉の絨毯がひかれていた。
芦原さんの呼び出し…。
多分またお見合い関係だろう。
28歳で名人・王座のタイトルを持ち、経済的・立場的にも申し分ない存在のボクは…要は奴等にとって良いカモだ。
金と欲にまみれた人間が、見合いをしたいとお偉い関係者に頼み、写真を持ってくる。
見るのも億劫。
話を聞くのも億劫。
ボクは一生独身で構わないと思っている。
この身と碁さえあればいい。
人生の伴侶など邪魔な存在だ。
両親も「孫の顔が見たい」と再三言うが、子供など煩わしいだけ。
碁を打つのに、妻や子は不要だと考えていた。
正直、うんざりした毎日を送っていた。
公園は夕方だけあって、人は誰も見当たらなかった。
さして広い公園ではないにしろ、遊具は豊富だ。
日中には家族連れがたくさん来るのだろうか。
ボクはベンチに腰を下ろした。
秋の夕暮れの空が赤と黄色に波打って見える。
「……疲れた……」
目を瞑り、誰もいないからいいだろうと、ボクは軽い泣き言を言った。
「──お兄ちゃん、何に疲れたの?」
バッと顔を空から正面へ向けると、そこに子供がいた。
夕日に染まってキラキラ輝く前髪…。
色素が薄いのだろうか。
夕日を浴びたソレは金髪に見える。
大きな琥珀色の瞳は興味と好奇心でユラユラ動き、
寒さのせいか、頬がほんのり赤みを帯びていた。
「……いつの間に?」
ボクが公園をグルッと見渡した時には、人の姿は見えなかった筈だ。
「へへへ!オレ、さっきまで秘密基地に隠れてたからさっ!」
子供は無邪気に得意気な笑みを浮かべていた。
「疲れたの?大丈夫?」
子供はボクを心配そうに除き込んだ。
「……あぁ」
ぶっきらぼうにボクがそう答えると、子供は「そっかぁ」とまた無邪気な笑顔で笑った。