白神桜ーハクコウオウー

□白神桜ーハクコウオウー 009
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鍛錬場に入れば、まだラビとリナリーは寝ていた。ヨークのみが一人で体を動かしていて。零の足音にヨークは動きを止めた。




『おはよ。体調は?』

「万全です。怪我とかも特には…」




零はショートブーツの紐を結びながら、ゆっくりと言葉を紡いだ。




『二対一で…やってみるか』




トントン、とつま先を床に打ち付け、太もものホルダーにあるポーチを開けた。

その途端、零の肩へと駆け登る黒い毛玉。そう、ルダだ。




『こいつはイノセンスでね、意思を持ってるんだ』

「動物…ですか?」

『発動すると巨大な狼になる。たまに暴走するが、その時は俺がどうにかする』




暴走って…と小さな声で呟くヨークから目を離し、ルダを床に降ろした。




『ルダ、解放』




一瞬闇に包まれたルダが、次の瞬間には大きな狼となっていた。

低く唸りながら、鋭く尖った爪を床に引っかけ、ヨークに向かって大きく飛躍した。

零はルダを目で追いながら、トンッと地面を蹴った。ヨークの背中に回り込み、片足のみを払う。

ヨークは、襲いかかってきたルダを、何とかスレスレで避ける。急いで立ち上がり、背後からの蹴りを屈んで避けた。

ヨークの体力が続く限り、ヨークが怪我をしない程度に、零はひたすらこれを続けるつもりだ。

途中、いつの間にか目を覚ましていたラビの声に、足を止めた。




「アレンは?」

『まだ部屋にいるんじゃないの。お腹空いたでしょ、食堂行って来たら?』

「おー、リナリー頼むさ」




そう言って出て行ったラビから目を離した途端、零の目が大きく目を見開いた。




『ルダ!!!ストップ、ストップ!!!!!』




壁に追い詰められたヨークを目掛けて、飛びかかろうとするルダ。

零の声も届いていないようだ。零はとっさに走り出し、次の瞬間には狼へと変化していた。

黒い毛並に赤い瞳の狼だ。

ヨークの少し手前で飛躍し、ルダの額に自分の額を押し付けた。バチバチッ、と青白い光が辺りを照らす。

その場に倒れ込んだルダと、少し離れた場所に着地した零。

二匹の獣の存在に、入ってきたアレンは大きく目を開いた。

ヴン、と直ぐに人間へと戻っていた零は、アレンを見て額を押さえ、苦笑しながらルダの発動を止めた。




『暴走してただけだから、大丈夫』




そう言ってヨークを立ち上がらせ、零はゆっくりと目を細めた。




 
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