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□R
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理由なんてないよ、すべて感情のままに。
あなたを、







6.reason




「あはは、イルミつまんないからその冗談」



「冗談じゃないから。試験終わるまで絶対使っちゃダメだよ」



「何よ、情報は試験終わってからじゃなかったの」



「それは後から教えるよ、とりあえずヒソカ」



「・・・・・わかったよ」



ヒソカは手でトランプを弄びながらゆっくりと歩みを進め、振り返ることなく部屋を出て行った。
ヒソカが出て行っても部屋内の空気は重く、いつもより一層イルミの表情は暗い。
イルミは溜息を吐くばかりで言葉を発しようとはしない。
空気は増々重くなる。







「あーもう!!やめてよこの空気、耐えられないから!」



「・・・・・・・ほんと君ってクロロと正反対だよね。黙ってれば似てるのに」



「うるさいな、お兄ちゃんは関係ないでしょ!」




お兄ちゃん、は所謂完璧人間だ。
経歴は世間に決して誇れるものでは無いけれど、頭脳明晰、眉目秀麗。
念の才能もあって、人を引き付けて、引っ張るカリスマ性もある。

お兄ちゃんは特質系で、私は強化系。
そう、私と似ている所は顔だけで後は全てお兄ちゃんに持っていかれたようなものだ。


だからって憎い、なんて思ったりした事なんて無い。ただ認めて欲しいから。
私だって闘える、って認めてくれたら誰も傷つく事なんて無い、のに



「あの時、軽く言ったけど。実はすごい憎しみを感じたんだ」



「見たこともない、念で」



「俺、すぐ親父に連絡したんだ」



「君とクロロがどれ程お互いを思いあってる、って知ってたから、急いだんだけど」



ごめん、と静かな部屋にイルミの起伏の無い声が響いた。
イルミの眼は私を映す事なく、まだ真新しいフローリングに、静かに視線を落とした。



「馬鹿にしないでよ」



視線を落としたイルミの頭を、軽く叩いた。
イルミは思わず顔をあげ、怪訝そうな顔をした。



「要は練を使わなけりゃいいんでしょ、自分の身を守る事くらいできる。馬鹿にするな」



「…………そうだよね。そういう奴だったよね」



「おい、どういう意味だよ」



軽くイルミと会話をして、満足したらしいイルミは部屋から出ていった。
近くにヒソカの気配は無い、きっとイルミに邪魔されて萎えたんだろう。
今すぐにでも眠気に負けてしまいそうな状況なので、この時ばかりはイルミに感謝した。










「はじめっ!」



ネテロ会長の面接を経て、最終試験に臨む。
私の名前を見ても顔色一つ変えない姿を見て、さすが大物だと思った。



一番初めの組み合わせは、ハゲとゴンだった。
実力ではハゲが遥かにゴンを勝っていた、がしかしゴンは雰囲気を自分のペースに巻き込み、見事勝利を掴んだ。
実際の戦闘なら確実に殺られてる、けどこういう戦い方もアリだな、と自分より幼いゴンに感心した。





「?」



クラピカの様子がおかしい。
先程ヒソカとの試合を終えたクラピカは怒り、憎しみ、混乱、と様々な感情を瞳に浮かべてこちらを垣間見ている。
先程の試合でヒソカが何かクラピカに囁いた、それが原因なのであろうか。



「アンタ、クラピカに何言ったの」



「何の事だい?それより早く闘ろう」



挑発するよな笑みを浮かべ、一歩ずつ歩みよるヒソカに、イルミの言葉を思い出した。
思わず練をしようとした自分を情けなく思った。
せっかくイルミが忠告してくれたのに、これでは無意味だ。



「つっ!」



「そんな小手先の体術じゃ萎えちゃうよ◇」



「ぐっ、しつこい男はお兄ちゃんに嫌われるわよ!」



「気づいてたんだ、僕が闘おうとしてたこと」



「当たり前よ、お兄ちゃんを見る目が全て物語ってた」



平行線を辿る決闘に、徐々に体力と精神が削られてゆく。
これさえ終われば、皆の元へ帰れる。
やっと仲間に、なれる。



「邪魔なんか、させないんだから」



高ぶる思いに、理性が緩んだ。
体中のオーラが下降してゆく。
警告するようなイルミの殺気を感じた時には、もう遅かった。



「…………!!」



ヒソカが壁にぶつかったと同時に、痛みが再び襲った。
前回とは比べものにはならないほどの痛み、脳が溶けていくような感覚に、必死に声を抑えた。


異常な事態に、騒然とする受験者。
クラピカも例外ではなくて、先程の瞳の色は消え、混乱一色に染まっていた。




「さすが、だね。物足りないけど、これ以上やると君が危なさそうだから止めておこう☆」



しばらく身動きしなかったヒソカは、私の痛みが少し治まった瞬間立ち上がり、負けを宣言した。


刺すような痛みに、柔らかい安堵感が広がる。
やっと、私は。



私は、……………



何の為に試験に来た、んだっけ



分厚いフィルターのようなもので、記憶を探る邪魔をされているような、感覚。今までの記憶がぐるぐる、と巡る。



「………………」



そこにはただただ試験についての出来事が流れてゆくだけであった。
鍵となるピースは全て暗闇の中。



ただただ頬から涙が伝う、だけ。
 

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