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□I
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無知な彼と彼女は惹かれ合う。
全てを知る男は、一人静かにほくそ笑む。










3.innocence





始まりのベルが鳴った。
私の目の先に居たアイツは指先で「おいで」とだけ念文字を残し、去っていった。ゴン達の誘いを笑顔で断って、人混みに紛れ込んだ奴の元へ向かった。







「何でアンタがいるの」



「それは僕の台詞だよ、クロロから恐ろしいメールが来たんだけど」



どうにかしてよ、と走りながら光る画面を差し出して来た。覗き込むと、そこには「ジウがハンター試験にいるはずだ、俺は用事があってどうしても行けない。何としてでも連れ戻せ、これは団長命令だ。」




などの内容、50件。ヒソカに頼るなんて、お兄ちゃんよっぽど怒ってんだ。顔を引き攣らせて額に汗をかく私を見て、ヒソカはニタリと笑った。






「喧嘩、それとも兄離れかい?僕とデートしてくれたら見逃してあげるけど◇」






「デート」という言葉に皺がよったが、このまま連れ戻されるよかマシだと思い、投げられたハートのエースを掴み、懐にしまった。




「食事、っていう意味ならね」



「つれないなあ」



肩を抱こうとするヒソカの腕を叩いて足を進めた。
ひたすら光に向かって進む。
視界が開けると、そこはじめじめとした湿原だった。馬鹿なヒソカは試験官に攻撃して、危うく失格になるところだった。
更に霧が深まる。



私はヒソカと違って平和主義者だ、手当たり次第受験生を殺って舌なめずりをするような変態とは違うのだ。
素早く奴から離れ、バンジーガムをくらう前にオーラ集中させて逃げ、集団の先頭であろう所までやって来た。



「あ、ジウじゃん」



「お!あれ、ゴン達は?」



微かに感じる試験官のオーラを頼りに、深い霧を抜けて先頭まで来たのだが、そこには意外な姿があったのだ。






「アイツは…………、友達助けに行ったんだよ。」



「ふーん。…………キルアは行かないの?」



「俺は助けに行ったせいで合格できないとか、嫌だし。ゴンみたいにお人よしじゃねえよ」



「まあ、普通はそうだよ。私もたぶん、そうするし」



私の言葉を聞いて更にキルアは落ち込んでしまった。暗殺一家、ゾルディック家の三男で、優れた才能を持ち、次期当主ー。


と、イルミに自慢された事はあったが、今隣を走っている三男ことキルアからはなんというか、そういうオーラを感じられない。

とは言っても才能は素晴らしいもので、足音も無いし、一瞬しか漏れなかった私の気配に気づいた。
しかし、今のキルアはただの男の子で暗殺業などしたくない、と今に叫びそうな様子であった。



助けてあげたい、とは思う。
でもやはり自分の命は大切で、まだやりたい事たくさんあるし、それにイルミにはー。




「カタカタカタカタカタカタ」



「うおっ!な、何だよいきなり、誰じゃいっ!」



思考していたらいつの間にかキルアとは離れていったらしい。
それにしても何だ、この男。いきなりだから、変な声が出たじゃないか!



「カタカタカタカタカタカタ」



「いや、だから返事をしろよ」



「カタカタカタカタカタカタ」



男は音を出すだけで、返事をしようとしなかった。
何故か先程からしきりに、顔に刺さっている物を指差している。
片方の手には見覚えのある針を何本か持っていた。





「針、針、針…………。え、もしかしてイルミなの?」



「カタカタカタカタカタカタ」



男が空中を指差すので、すかさず凝で瞳をこらす。
そこには、





[正解、今正体ばらせないからまた後で]



やはりイルミだ。
よかった、見つかって。




俯いて走るキルアに心を痛めつつ、先頭を行き、二次試験の会場に着いた。
周りを見渡すと、いた。




「イルミ、久しぶり」



「ここにいるって事は成功したんだね」



「おかげさまでね、まあヒソカがいたのは予想外だったけど」



「それはよかった」



イルミはお兄ちゃんを通じて知り合った。
ゾルディック家の長男で、お金を払えば何でもやってくれる良きビジネスパートナーだ。
依頼料は法外だが、腕が腕だけに口を閉じる事しかできない。


今回はイルミの協力があったからお兄ちゃんから逃げ出す事ができたのだ。





「喧嘩でもしたの、クロロからのメールウザいんだけど」



「まあ、ね」



「理由はあえて聞かないでおくけど。あ、ちゃんと口座に振り込んでおいてね」



「相変わらずだな、お前」



深い霧のせいか、既に二次試験の会場に着いている者は少なかった。
暇潰しに、念文字でしりとりをしたりしたが、イルミが物騒な言葉ばっかり使うために数分で終わってしまった。


[あ、キルが来た。俺今からギタラクルって名前だから、キルにばらしたら殺す]



[えっ、]



そうするうちにイルミはさっきまでの不気味な姿に戻ってしまった。
若干ひきつつ、イルミことギタラクルから離れようとした時、突然会場から、猛獣の唸り声のような音が辺りを鳴らした。
何事か、と思ったのは杞憂だったようで、そこには気の強そうな女とゾルディックの豚、いやミルキの何倍もの腹を持つ男がいた。

そいつらによると、二次試験は料理。
最初の豚の丸焼きはまだよかった。ただ焼けばいいしね。




「スシ、って」



何?と隣のギタラクルに話し掛けるが答えが出るはずも無く。
目の前に置かれた包丁などを手にするがさっぱりだ、と思ったが、ハゲの人やレオリオのおかげで何となく分かった気がした。


とりあえずは、魚だな。







「…………って釣りしたこと無いわ」



どうしよう。とりあえずそこらに落ちていた太い気の棒に、丈夫そうなツルをつけ、イルミに貰った針をつけてみた。
しかし待てども待てども魚は釣れない。

万策を尽くして困っていた時、後ろから音がした。




「あれ、クラピカ?」



「ジウ、か?どうしたんだ、こんな所で」



「いや、釣りしてたんだけど一向に釣れなくてさ」



「釣り竿に問題は無いようだが………、ちょっと今まで通りにやってみてくれないか?」



クラピカに言われた通り、軽く握って、川に落とす。クラピカは少しの間悩み、何かを思いついたようで、私に近寄ってきた。



「う、わ」



「もう少し竿を揺らしてみたらどうだろうか、」



クラピカが後ろから覆い被さり、骨張った手が重なる。年下といえども、筋肉のついた手は男そのもので、頬は自然と染まっていった。どくどく、と次第に早まる音がクラピカに聞こえてうるような気がして、少し後ろを振り向くと、彼の瞳と目が合った。
彼の瞳は漆黒の黒色であった。一瞬、燃えるような緋色が走ったような気がした。


気がつくと、その距離は僅かで、思わず身を引いた。


「す、すまない………」



「いや、あ、ごめん」



耳を赤く染めてそっぽを向く彼に、また一つ音が鳴った。
彼は一発、両手で顔を叩いて、こちらに向き直した。


「そういえば、ジウに兄弟とかいるのか?」



「うん、まあね。お兄ちゃんがいるの、お兄ちゃんの名前はね、」



「やあジウ、そんな処で何してるの?試験、終わっちゃうよ、」



ヒソカだった。
口は、気遣いの言葉だったが何かおかしい。
いつもに増して上機嫌だし、何よりも私達を見る目が。
哀れむような、滑稽なモノを見るかのような視線を投げかけてくるのだ。



「さあ、会場に戻ろうよ」



感情の読めないような笑みを浮かべたヒソカの手を取った私は間違っていたのだろうか。
しかし、全てを悟ったかのように、私の話に相槌を打つヒソカに疑いの目を向ける事は、無かった。





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