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人知れず、静かに涙を流す。
その痛みは計り知れない、誰にも分からない。






2.Pain












いつからだっただろうか。と聞かれても誰にも分からないだろう。
恐らく。いや、確実に始まりは5年前のあの時だった。










「お兄ちゃん!今日こそ連れてってよ!」



「ダメだ、お前はまだ15だろう」





あれは緋の目を持つクルタ族を狙いに行く時だった。ジウはそこそこに強かった。だが心配故に仕事には一度も連れていった事はなかった。
一人で泣いているジウを見て見ぬ振りをしてまでも。




「一回くらい許してやれよ、そろそろジウも戦闘慣れしてないとこれからヤバいんじゃねえのか?」



「ワタシも眉なしと同じよ、ヘタレのままだと何処行ても即死するね」




珍しくジウに賛同する二人を一瞥して溜息を吐く。買収してまでアイツは行きたいのか、とげんなりした。
他の団員もまんざらではないようで、期待した目で俺を見つめていた。




「……………今日だけだ。」


いくつもの視線に耐え切れず、とうとう許可してしまった。





「やったー!さすがは幻影旅団の団長様!」




笑顔で抱き着くジウを見て自然と笑みが零れた。
まだまだ俺は甘いな、と心の中でひっそり思った。



















「くっ………!」



クルタ族は予想以上の強さだった。
女や子供はともかく、成人男性のほとんどは念能力者だった。
フィンクスやノブナガでさえ額に汗をかいている。



徐々にではあるが、死体の数が増えてゆき、地面に伏せてゆく緋の目が増えていった。
もうこの世には意識は存在していないはずだが、どの目も激しい怒りを浮かべて、美しく揺らめいていた。思わず心を奪われ、その内の一つを手に取り、地に伏す緋の目とは似ても似つかないほど青白く、神秘的に煌めく月にかざしていた時だった。






「やあーっ!!」



いつもの調子の軽い声から想像もつかないような、空間をつんざくかのようなジウの悲鳴が響いた。
じわり、と冷や汗がたれた。再びジウの悲鳴が頭に響いて、心の痛みが増した。
何十分、何時間も過ぎ去ったかのような長さだった。




「ジウっ!!」



「お兄ちゃ、痛い、痛いよ!」



指はあられもない方向に曲がり、お気に入りだと言った服は破け、目からは赤黒い血が流れ落ちる。
はいつくばるジウを虫ケラのようにクルタの男は蹴り飛ばした。
口からまた新しい血が流れ出した。



「はっ、幻影旅団ってのも大した事ないな!」



咳込むジウの鳩尾に強化した蹴りを入れ、弱ってまともに纏さえできなくなっていた体は宙に浮き、激しく地面にたたき付けられた。



「お前…………っ!」



「あ?何だよ、お前もコイツみたいになりた」



「黙れ」



既に容量を越えた怒りが洪水のように溢れ出して、あと少しで男の喉元を切り裂こうとした、という時だった。



「ダメっ!!」



一瞬にして目の前にジウの華奢な体が現れた。
俺は反射的に転がり、軌道を変えた。
立ち上がって、目にしたものは、









「っ………………!」



俺と男との間を遮ろうとしたジウの手に穴が空いたのだ。
ジウはあまりの激痛に声にならず、ただ地に伏せて、涙を流す事しかできなかった。



「だ、から言ったでしょ?危ないって…………」




消え入りそうな声で俺の手をつかんで、少し引き攣った笑顔を見せた。






「おい、こっちは終わった、ぜ」



呑気にやって来たフィンクスは今の状況を理解出来ずに立ち止まっていた。
何故ジウが倒れているのか、理解出来なかった。いや、したくなかったのだ。




しばらく立ち尽くしていると、目の前には血に濡れた団長が、一対の赤をもって立っていた。
傍らにはもう人間であったかさえ分からないような、何かがあった。



団長は、虚ろな目をしていた。







「フィンクス、ジウを頼む」



「あ、ああ」



ジウを傷つけないようにそっと、連れていこうとした時、団長は。





「フィンクス、作戦変更だ」











女子供構わず、皆殺しだ。



あまりの気迫に、喉をごくりと鳴らし、掠れた声でしか返事を返す事しかできなかった。






















その日、一人を除いてクルタ族は一夜にして惨殺された。
残された少年は底知れない絶望感に襲われた。
大粒の涙を流し、蜘蛛の仕業だと知った彼は憎悪を感じるとともに、復讐を心に刻んだのであった。










一方、ある兄は呼吸器をつけて弱々しく眠る妹の傍を離れず、未だ意識の回復しない彼女の手を握り続けていた。
白い包帯で巻かれた彼女の手が痛々しくて、仲間達は目を逸らす事しか出来なかった。
兄はそれでも、涙を流しながら彼女の回復をいつまでも待ち続けたのだった。






 

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