暇人、世にはばかる

□暇な彼女は何を思う
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今は月が怪しげに光る夜。一人の少女にいやらしくニヤつく男が群がっていた。


「ねえ、そこのお嬢さん」



「そんなに暇そうなら俺らと遊んでいかない?」



「…………」



男達は更に体を進め、少女の体を囲み、周りからは既に少女の体は見えない。



しかし囲まれている当の本人はまるでそこに人がいないように携帯電話をひたすら見つめている。



「ねえ、こんな時間にさあこんな場所うろついてるって事は」



「つまり、お嬢ちゃん遊んでるって事だろ?」



「ダメだなあ、夜遊びなんかしたら」



「…………」




男達はめげずに話かけつづけるが少女は依然として携帯電話を見続ける。




「さっきから何してんの?」


「俺達の話も聞いてよ?」





すると男の一人が少女の携帯電話を取り上げ、地面に投げ捨てた。
付けられていたストラップが欠けて辺りに散らばる。


そこで少女は初めて人がいるのに気づいたようだ。





「あ?………誰」





少女は何故か小さくふっくりとした口からよだれを垂らしている。




「いや、俺達は君がこんな夜遅くまで一人で外にいたから気になって」




「ほう、なるほ。私はただお腹がすいたから美味しいお肉を求めてさ迷ってただけなんで大丈夫です」




男達は怪訝そうにしていたが地面に投げられた携帯電話にはステーキの画像が映っている。





「心配かけさせてしまってごめんなさい、んじゃ私は肉探しの旅に出るので」




そう言ってストラップが無惨になった携帯電話を拾い、光が灯る街のほうへ歩きだす。



「ちょ、ちょっと待ってよ。俺達と遊んでくれたら美味しい焼肉屋に連れてってあげるよ!」





「……ッ本当!?」




歩みを止めて振り返って期待に満ちた目で見つめる。それを見た男達は笑みを深めて少女に近づく。



「うん、本当だよ?」






一歩、また一歩近づく。
少女は逃げようとはしない。




「ラッキー!遊べて焼肉食べられるなんて、さすが私!」



「ははは、んじゃ行こうか」



「はい、」






ー。





少女が何か呟いたが男は聞こえなかったらしい。
男が少女の腕を掴もうとした瞬間、男の背後に




巨大な腕が現れた。




「な、なんだありゃ!」



「あ?何言ってんだお前早くこいつ連れ」




その瞬間男の体は少女の体を少し擦って遥か後方に飛ばされた。




「お兄さーんさっさと遊んで焼肉屋連れてってよー」




「チッ、糞がッ!」





男の仲間達は少女に向けて炎を繰り出す。
少女は迫ってくる炎に驚きもせずに何かを考えている。




「お兄さん達能力者なんだ………」




「死ねええええぇ!」




少女に男の怒りで更に勢いづいた炎が振りかかった。


「やったか?」



「今のは完全に当たっただろ」




しかしおかしいことに悲鳴が聞こえない。
当たったはずなら悲鳴が聞こえるはずだ。


辺りは悲鳴が聞こえる所か虫の鳴き声さえしない。




「いくらなんでもさあ、女の子に火投げるなんて最低だと思うんだけどー」




「え?」



「今のあの女の声か!?」




「あのさあ、私もう萎えたから今日はもうお開きね、んじゃさいならー」




男達はその言葉を理解できず、困惑していたが、次の瞬間全員地面に倒れ伏した。



「今のは手加減したのに、今日もまた暇だったなあ」




心底つまらなそうな顔で先程出した巨大な腕を消し、欠伸をひとつ落として明かりが一際輝く街の中へと消えていった。






暇な彼女は何を思う






(能力者だから楽しめると思ったのに)




 

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